若い身空で風来坊をしているという少年は、度々私の住んでいる村へやってきては、ちょっとした爆弾発言を投下していく。
 ……ちなみにその相手は村娘Aこと私である。

 やたら真っ直ぐな目をした彼は、これまた真っ直ぐな言葉を率直に伝えてくる。
「あなたのことが好きです」
 ……こうも直球でこられると、どうしたもんかと思う。まあ、それに対して私が言うことも毎度決まってはいるのだけれど。
「あー、はいはい。ありがとうね。私も好きよ」
「フィアさんと僕の好きの意味が同じだとは思えないんですけど……」
「それで満足しときなさいな、おませさん」
 そう言って彼の額をピン、と軽く指で弾く。
「……そうやって誤魔化すのは……ずるい」
 弾かれた額を押さえて、むう、と唇を尖らせる顔は年相応。それを見て、私はおや、とほんの少し目を見開く。
 この少年と知り合ってから、実はまだそんなには経っていないが、子供らしい表情が珍しいと思うくらいには付き合いがある。
 何にせよ、いつもひどく大人びた表情をしているから、こういう少年らしい姿を見ると安心する。
 ふとした瞬間に見せる、どこか寂しそうな顔をして欲しくないと思うくらいには、私はこの少年のことが好きだ。
「それが大人ってものなんですよ、少年」
 大人と言いつつ私もまだ充分子供なんだけどね。
「たった5つ離れてるくらいで子供扱いしないで欲しいんですけど」
「この年で5つの差は大きいわよ、リンク君」
 思春期真っ只中の10代前半と10代後半の壁は半端ないのだ。
 そんな私の言葉に、リンク少年はつまらなさそうにぷいっとそっぽを向いてしまう。
 ……何だか今日はいつになく子供っぽいなあ。何かあったんだろうか――なんて勘繰りつつ、私はリンク少年の子供らしい顔を微笑ましく見てしまう。
 それにしても美少年はどんな顔しても可愛いな。リンク君の顔立ちはどう見ても将来有望だ。数年後には一体どんな美青年になっていることやら。恐ろしい。
 うーむ、そう考えると、こうして言い逃れが出来るのも今のうちだけかもしれない。この調子で好きですなんて言われ続けたら、わりと面食いな私は危うい気がする。
 まあ、その頃には私には見向きもしなくなってるかもしれないけど。ちょっと寂しい気もするけど、それが普通よね、多分。

 ――なんて、暢気に考えていた私は知らない。

「……まあ、そう言って逃げられるのも、どうせ今のうちだけですけどね」
 リンク少年が、そう小さく呟いたのを。



12/03/31


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