※リンク×ゼルダ前提なので嫌な予感がしたらブラウザバックを推奨いたします。



「聞いて、フィア! リンクったら鳥乗りの儀の練習、全然してないの」
「そんなに心配しなくても大丈夫よ。リンクの実力なら、優勝だって目じゃないわ」
「リンクの実力を疑っているわけではないけど……」
「あなたが信じてさえいれば、絶対に大丈夫よ。リンクにとって、あなたの信頼ほど嬉しいものはないもの」
「そうかしら……?」
「間違いなく」
「……なんだか、大丈夫な気がしてきたわ」
「リンクのために編んだパラショール、早く渡せるといいわね」
「ええ!」



「行ってしまうのね」
「フィア……」
「ゼルダを探しにいくんでしょう?」
「ああ。きっと待っているはずだから……。だから、僕は行くんだ」
「妬けるわね」
「え?」
「あなたたち2人の間には、誰も入れないってこと」
「からかわないでくれよ、フィア」






 なぜ自分ではないのか。

 なぜ自分には出来ないのか。

 なぜ――あの人でなければならなかったのか。



 何らかの分野において、自分よりも優れた他人を見たとき、そんなことを考えたことはないだろうか。
 おそらく、殆どの人が一度は経験することだと思う。

 それは羨望、つまるところ嫉妬だ。

 嫉妬という言葉に、人はネガティブなイメージを抱きがちだが、嫉妬とは必ずしも悪い感情ではない。
 闘争心を煽り、自分を磨き上げる原動力になるのだ。
 ライバルの存在でお互いを刺激し、高めあう。……とても素晴らしいことだと思う。
 しかし、やはり嫉妬という感情のネガティブさを否定することも出来ない。
 嫉妬は人を狂わせる感情なのだ。
 怒りにも似たそれは、どんなに抑え込もうとしても、徐々に人の心を苛み、蝕んでいく。
 過ぎた嫉妬はやがて良心すら押し潰し、正常な判断を失わせてしまうのだ。
 一体、どれだけの人間がその感情に振り回され、狂わされてきただろうか――。

 そして……例にもれず、私もそんな人間の中の1人だった。



「フィア……! どうして君がここに!?」
 驚きに見開かれた、青空のように澄んだ目が、私の姿を真っ直ぐに映しこむ。
 たったそれだけのことで、私の心はかすかに昂揚する。現金なものだ。私は状況も忘れて、つい笑いそうになった。
「どうしてだと思う?」
「もしかして、君もゼルダを助けに?」
 彼が進もうとしている先には、ゼルダがいる。彼が誰よりも大切に想っている、あの少女が。
 誰からも愛される優しいゼルダ。彼女との知り合いならば、誰だってゼルダを助けたい――そう思うだろう。そして彼の中でも、それが当然だろうという結論に至ったのか、緊迫していた青い瞳が柔らかさを帯びる。
 確かにかつての私なら、助けようと奔走しただろう。何せ私と彼女は友達という関係だったのだから。
 しかし、今の私はまるで逆のことをしようとしている。
 今度は別の意味で笑ってしまいそうになる。つくづく嫌な女だと自分でも思う。

 私が今ここにいる理由は、彼を足止めするためだ。

 彼は知りもしないだろうが――いったい幾度、その瞳に自分だけを映して欲しいと願ったことだろう。
 そして私はそれが叶わない望みだと知っていた。
 何故なら、いつだって彼の心には別の存在があったからだ。
 私はそれに対して、当然のことだと、常に諦めがあった。覆すことが出来ない事実なのだと。
 そして……それは今後何をしようとも、やはりどうすることも出来ないことなのだろう。

 だから、私は別の選択肢を選んだ。

「ねえ、リンク」
 語りかけながら、私は静かな動作で腰脇に携えていた鞘から剣を引き抜く。
 私が一体何をするつもりなのか知らないリンクは、ただ不思議そうに目を丸くした。
 数々の修羅場を潜り抜けてきた彼が、目の前で剣を抜いた私に対して、何ら警戒する素振りを見せない。これはおかしなことではない。彼は信用しているのだ、この私を。
 私は今まで、彼から信用されるだけの関係を築いてこれた。得難い絆だ。そして本来、それだけでも満足するべきだったのだろう。
 だが私が欲しかったのは、そんな恒久的に穏やかな関係じゃない。そんな生温いものじゃない。そんなものに意味はない。少なくとも、私にとっては。
 私が望んでいたのは、もっと高みにあるものだ。前に進めない停滞した関係などに満足なんて――出来るはずがなかった。
「フィア?」
「自分の心に正直であること……それは美徳よね。素晴らしいことだと思うの」
 そう言って、手に握り締めた剣の切っ先を、リンクに向ける。さすがにただならぬ空気を察したのか、リンクは私からじりじりと距離を取った。
「フィア、何をするつもりなんだ?」
「何をするつもりかって? とても簡単なことよ……」私は今度こそ口元に確かな笑みを浮かべた。「自分に正直になるの。そして私の正直さは、他人にとっては美徳にならなかった。それだけのことなのよね」
 今までずっと自分を偽ってきた。表面上では2人の良き友人を演じ、その癖、心の中ではずっと妬んできた。
 そんな私が今、こうして"正直"になろうと決意したのは――このまま終わらせない。そう願ったからだ。
 この想いを『時間の経過』というものに甘えて失ってしまうくらいなら、刹那的でもいい、私はただひたすら高みを目指したい。
 愛情に勝る唯一の感情で、私は……私という存在は、彼の中でようやく確かなものとなるのだ。

 だから、私はその切っ先を彼へと向ける。



「お願いがあるの……ここで、死んでくれるかしら?」



12/03/29


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