※勇者の設定が特殊すぎるのでタイトルで嫌な予感がしたらブラウザバックを推奨いたします。



 ある日、気が付いたら勇者になっていた。
 何を言っているのか分からないと思うが、俺も何が起きたのか全く分からなかった。
 頭がどうにかなりそうだった……。
 異世界トリップとか転生だとか、そんなチャチなもんじゃあ、断じてねえ。
 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。



「リンク? 何を黄昏てるの?」
 意識を飛ばしていた俺の顔を、10歳前後の少女がひょいっと覗いてくる。
 この少女は俺が数年前にこの身体――リンクとして目覚めてから今の今まで付き合いがある腐れ縁だ。つまるところ幼馴染である。
 これがまた可愛らしい子なのだが、残念ながら小学生くらいの年頃は守備範囲外なので、ドキッとかラブコメ漫画みたいに胸が高鳴ったりはしない。何せ俺は至ってノーマルな性癖の持ち主なので。
 と言っても今の俺の見た目だと、本来の守備範囲よりもこの年頃の女の子に淡い恋心のひとつやふたつ抱く方が年齢的に釣り合いが取れてて健全なのだろうが、それだと精神的にロリコンになってしまう。
「いや、一種の様式美としてポルナレフは外せないと思ってだな……」
「ポルナレフ? リンクは時々おかしなことを言うのね」
 ロリコンはごめんだと思っている傍から、口元に人差し指を当てて小首を傾げる少女の仕草にちょっとだけそっちの趣味に走る野郎共の気持ちが分かってしまったのは内緒だ。
 まあ、なんだ。万が一にでも恋なんてすることになったら、この子の将来に期待しておこう。なんて勝手なことを考えるが、そういやこの子の種族――コキリ族は大人にならない種族なんだった。
 ちくしょう、このコキリの森にいる限り俺に彼女が出来る日はこなさそうだ。といっても、どうせ日本でも彼女なんていなかったがな。リア充爆発しろ。
「そんなことより、何の用なんだ? 俺、まだ眠いんだけど」
 寝台の上に胡坐をかいた俺は大きく欠伸をすると、寝癖のついた頭をぼりぼりと掻く。
「あれだけぐっすり寝といてまだ眠いの? もう、お寝坊さんなんだから」
 両腰に手を当てて、ぷくっと頬を膨らませる姿にちょっとだけそっちの趣味に走る……っていい加減思考がループしてんぞコラ。しっかりしろ、俺。まだ眠いからって寝惚けて変な道の扉を開こうとするんじゃない。
「リンクのことだから、また寝坊するかなって思って起こしに来てあげたの。今日はみんなでデク祭りの劇の練習をするって言ったじゃない」
 デク祭りはコキリの森の毎年恒例のお祭り騒ぎである。子供の文化祭のようなものだ。
「あー、そんな約束もあったような、なかったような……なかったような?」
 そんな話があったのは一応覚えているが、正直面倒だったので適当なことを言ってみる。
「あったの!」少女がキッと柳眉を釣り上げる。「主役の片割れがこんなところにいたら、いつまで経っても練習が始められないでしょ!」
 ああ、そうだった。何だか知らないうちに劇で王子様役を押し付けられたんだった。
 身体は子供でも心は大人たる俺にしてみれば劇の練習なんざ言ってみれば幼稚臭くて嫌になる作業だが、こんな平穏で暢気な日々もいつまで続くか分からない。
 まあ、今のうちに堪能しとくのも悪くはないだろう。
 色んな意味で酷い理由で、俺は「ほら行くわよ!」と詰め寄ってくる少女に、両手を挙げて降参の意を示した。
「分かったよ、フィア。行くってば」
「最初から素直にそう言えばいいのよ、全く」フィアは偉そうに胸を張ったが、すぐに破顔した。「ふふっ、リンクが王子様役するの、私とっても楽しみだったんだから!」
 白い頬をうっすらと紅く染めて微笑むフィアに、俺は胸の鼓動が高鳴るのを――感じてたまるか! 俺はそんな趣味はない。ないんだからな。
 心の内で否定しつつ、
「よーし、やるか!」
 先ほどまでとは打って変わって、妙にやる気を出して寝台から跳ねるように起き上がった俺は、テーブルの上の帽子を引っつかんで自宅を飛び出した。
 後ろからはくすくすと鈴の鳴るような可愛らしい笑い声が聞こえてくるが、俺は断じてお前の笑顔に乗せられたわけじゃないからな! そこんとこ勘違いするなよ!
「待ってよ、リンクー! 一緒に行きましょ!」

 ちくしょう、幼馴染が可愛くて生きるのが辛い……。



12/01/29


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