承太郎と電車


終電近くの電車は人も少なくて、静かだし暖かいし、揺れがとても心地よく感じる。二人で乗車してから最初の3駅程は、お互いに話したい事を話し相槌をうっていたが、じわじわと瞼が重くなって私の体は小さく揺れ始めてしまった。

「眠いのか?」
『…ちょっとだけだよ。』

足を組んで隣に座っていた承太郎は、私にそう聞くと座席に浅く座り直す。座高の差が少し縮まって、彼の逞しい肩が私の顔のすぐ横の位置にきた。

「…肩貸すぜ。」
『え?』
「寄りかかれって言ってんだ」
『、わ!』

普段そんな事を言わない彼がとても珍しくて驚いているうちに、強引に肩に手を回されてグッと引き寄せられてしまった。必然的に近付く承太郎の顔、首筋と、そこから香る彼の匂いが私の頭の中を埋め尽くしてしまう。

『…承、太郎…重いから、いいよ』
「そんなにやわじゃねぇ」
『………そう?』

私たちのいる車両には幸い人もいなかったので、素直にそこに収まる事にした。
電車の走る音と、耳元では承太郎の呼吸音が聞こえる。それが心地よくて、なんだか嬉しくて、首筋に顔を擦り寄せてみるとピクリと反応を示した。

「なまえ?」
『承太郎いい匂いするね』
「………お前もな。」

少しだけ承太郎の表情が緩んだと思ったら、次の瞬間、頬に一瞬の口付け。

「まだ数十分はかかるぜ。」
『うん…暫く肩お借りしますね』

頬から全身に心地よい熱が回る。なんとなく甘い空気に飲まれる。このまま永遠に電車が走り続けてしまえばいいのにと、そんな事を思いながら眠りに落ちた。




20121103 for KDK!

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