プロシュート兄貴と海
太陽の日差しもだいぶ弱まって、稀に涼しい風が吹き抜ける。前方を見ればそれはそれは綺麗な夕日が浮かんでいて、手を繋いで帰路をゆく男女はこの風景にとてもよく似合う。
私の隣にいるのも男だけど、前を歩くそのカップルとはだいぶ様子が違った。
『……早く終わったね。』
「そうだな。予定より早く帰れる。」
『えー…帰るの?マジで?』
「帰る。」
『………えぇー…』
この暑い中パリッパリのスーツに身を包んだ男、プロシュート。彼は興味無さそうに私の話に相槌をうつ。もう少し雰囲気とかそういうの考えてほしいものだ。
前のカップルと何が1番違うかと言えば、この一言に限るだろう。たった今人を殺してきたのだ。私とプロシュート、ペッシ、メローネの4人はリーダーからシチリアでの任務を言い当てられ、任務遂行期間は2日間。の筈が、なんとも呆気ないことに2人だけで片付いた。ペッシとメローネには散々「ずりぃ」だの「さすが兄貴」だの言われたけど、私だって驚いた。ヌルすぎ。
よって、私達は明日1日、やる事がないのだ。
『…いいじゃん…リーダーには明日連絡しよ?』
「てめぇー何言ってやがんだ?」
『頭かたいよ兄貴ぃ!遊ぼ!?』
「…イカれてんのか」
『海行きたい!海うみ!』
どうせシチリアに来てるんだからサン ビート ロ カーポ!
そう言って少し前を歩いていたプロシュートの腕に飛びついて、おねだりするように身体をひっ付けた。知ってるんだよ、何気にこういうの弱いって事をさ。
『ねーぇー行こうよー綺麗だよービーチー』
「……別に構わねぇか…」
『エッほんと!?まじ!?』
「だがよ…なまえお前…この貧相な体を晒すってぇのか?」
『は?失礼極まりないんだけど!』
「腹の肉は大丈夫なのかァ?見せてみろッ」
『は、ちょ、何すんのやめろ!』
私の脇腹を掴もうとするプロシュート。急に機嫌が良くなったのかニタリと笑ってじゃれてきた。憎たらしい女の敵め!でもこの笑い方が嫌いじゃくて、体温が上がってしまうから困ったものだ。
『ホルマジオは痩せたって言ってくれたもん』
「あァ?…テメェ見せたのか」
『いや服の上からね。でも、まだまだだよね…やっぱり…』
「…その辺のよりは細ェんだから気にしなくていいんじゃねぇか?」
『え、ホント?』
「あァ。…そーだなぁ…」
プロシュートに褒められる?なんて滅多にない。これはテンション上がる!
目を輝かせて喜んでいたら、ニヤリと笑いながら腰に腕を回されてグイと引き寄せられた。
突然のその行為に、思考の回転がついていかない。
「明日お前の水着姿なんて誰にも見せたくねぇくらい、だな。」
『………お?』
「ペッシはいい。だがな、メローネには近付くんじゃねぇぞ。いいか?」
『え、何言ってんの…』
「これが守れねぇなら海は無しだ」
顔が赤くなるのが判って、慌てて彼の拘束から抜け出す。
「次の休暇は二人で行くぞ」
『……ぇえ!?!?』
「なんだよ、嫌なのか?」
『…い、え…嫌じゃないっす…』
頭にポンと乗った大きな手。
フッと笑った顔。
その仕草に見事にノックアウトされた。
20120815
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