四木は溜め息と共に紫煙を吐き出した。
事務室の机に寄り掛かりながら先程出ていった恋人である子供を思い出す。

頼りなげな、それでいて幸せそうに微笑む姿。
不安げな瞳は消えなかった。
しかしいつも子供らしく無い賢い子供の心の底からの微笑みに……。


と、その思考をわざと遮るかのように扉をノックされた。
入るよう促せばその主は赤林であった。

「失礼しますよ」

「何の用件ですか」

「いやいや、別にたださっき折原の坊ちゃんを見掛けたもんだからね」

ヘラヘラと杖を降る赤林の瞳は色眼鏡に隠されて伺えない。
この男は油断ならない上に……かなり世話焼きだ。
四木もそれを分かっているようで余り良い顔をしない。

「坊ちゃんはあんな機嫌良さげだったのに旦那は悪いですねぇ」

「関係無いですよ」

ぐりっと灰皿にまだ長い煙草を捩込む。
その吸い殻を指で摘み赤林はまたへらっと笑った。

「旦那も甘いですねぇ……あんなもん渡しちゃって」

「………」

「しかもそれに対して罪悪感抱いてちゃ世話ないでしょうに」

「黙れ」

赤林の笑みを眺めつつ、頭からは臨也の笑顔が離れない。

「旦那、どんなに賢かろうが何だろうが相手は子供ですよ。他に無かったんですかい?」

赤林の言葉が何かを突き付けてくる。
けれど胸に突き付けられたその何かは大事な部分に届きそうで届かない。
全く面倒臭いものだと四木は呟くが結局胸の内の感情は消えてはくれなかった。

臨也のあの微笑みと同じくして……。



(見えない意図と罪悪感、彼にあるのは)





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