拍手御礼
(来神 静→←臨)
しとしと、
しとしと、、
雨が降っていた。
今朝は清々しい程晴れていたが三時限目が始まった辺りから雲行きが怪しくなってきて今の雨だ。
けれど折り畳み式の傘をいつも持ち歩いてたのもあって大して慌てはしなかった。
放課後のしんとした空気の中、滲み入るような雨。
ほとんどの生徒は傘が無くても無理矢理帰って行ったのだろう。
人一人いない校舎はなんとも淋しげに映る。
愛する人間達のいない場所に長く留まる理由も無い。
にも関わらず今日に限って最後まで残っていた。
ただの気まぐれだった。
(あ)
玄関に一つ、人影。
見慣れた金髪が視界に入り足を止めた。
彼は空を仰いでぴくりとも動かない。
こちらに気付いては居ないようだ。
ただ空を見上げている彼は傘が手元に無く途方に暮れているのか、
それとも雨を煩わしく思って曇天を睨みつけているのか、
はたまたぼんやりとほうけているだけなのか、
(案外ぼーっとしてるだけかもね、シズちゃんそういうの好きだし)
そんなに濡れる雨でもない。
傘がなくたって少しくらい平気だろうに。
それかそこらに放置してあるビニール傘でも持っていったら良いのに。
彼らしいといえば彼らしい。
そんな事を思って小さくクスリと笑った。
「臨也?」
「!」
急に振り向かれ驚く。
バレないように別の出口から出るつもりだった為気付かれるなんて想定外だった。
しかしそれ以上に予測していなかったのはこちらに気付いた静雄が嫌な顔すらしなかった事だ。
穏やかな声音に思わず思考が止まる。
「何だ、手前も傘ねぇのか」
「え?あ、うん」
咄嗟に首を振りそうになったが、思わず頷いた。
傘と一緒にその事実をも鞄の中にしまい込み、何と無しに歩み寄る。
静雄はまた空を眺めていた。
やはりぼんやりと、穏やかそうに。
こうして横顔をまじまじと眺める機会なんてそうそう無い。
自分は好きな相手には構って欲しくてちょっかいを出すような典型的な性格をしている。
だからいつも見るのは不機嫌そうな顔ばかりで。
本当に静雄は綺麗な、それでいて凛々しい顔立ちをしていた。
「お前、雨、好きか?」
不意に静雄の声が響く。
慌てて視線を反らして聞き返した。
「だから、雨は好きかっての」
「雨?俺は…じめじめするし、あんまり好きじゃないかな」
「うん、俺もだ」
「へぇ、意外。そんな質問してくるもんだからてっきり好きって答えるのかと思った。ぼんやり空なんか眺めてたし」
そういえばキョトンとした静雄の顔があった。
けれどすぐにそれも緩んで、ふんわりと微笑まれた。
その笑顔にどきりと胸が弾む。
「そうだな。今日は雨もそんなに悪かねぇなって思った」
こんな風に微笑まれた事なんて無い。
しかもそれが自分の言動によって引き出された表情だと思うだけで堪らなくなった。
嬉しい、あぁ、苦しいほどだ。
「なんていうか空気が、だな。濡れるのはゴメンだが空気が静かで気持ちが良い」
「そっか」
「あぁ。それに…」
ゆるりとこちらに向き直られた気配がして静雄を見上げる。
穏やかで柔らかくて…切なくなるぐらいに暖かい笑顔が眼前に広がった。
「お前とこうやって話ができたしな」
「え…?」
「好きになったかもな、雨」
それはどういう意味だと問おうとして、静雄が急に上げた声に遮られた。
「雨止んだな」
いつの間にか雨は止んでいた。
遠くの空には雲の切れ間から光の帯が現れ始めている。
呟くように静雄は言って歩を進め始めた。
思わずそれに手を伸ばしそうになりながら彼を呼ぶ。
「シズちゃんっ」
「あー、俺帰るわ。雨も止んだし」
背を向けたまま静雄は手を挙げる。
僅かに残る名残惜しさ。
鞄を握り締めて黙っているとまた静雄は笑顔で言った。
「今度雨が降ったら…」
「?」
柄にも無く寂しさを感じている事を彼には見透かされているようだった。
ふと顔を上げれば静雄は振り向いてまるで悪戯に成功した子供のように笑う。
「今度は、傘に入れて帰らせろよ。その傘で」
「え…、あ、はぁ!?」
指差された先は握り締めていた鞄だった。
隠していた事を気付かれていた…。
その羞恥によく解らない汗が止まらない。
ついでに顔が熱い。
「じゃあなっ」
静雄はそのまま走っていった。
泥水が跳ねるのもお構いなしに。
「くっそ…シズちゃんの癖に…」
悔し紛れにそう唸った。
ピチョン、
屋根から雨の名残が落ちる。
(あぁでも…)
雨は上がり、景色も先程のような薄暗さもなく光り輝き始めている。
けれど今は余り好きではなかった筈の雨が恋しく感じた。
(雨、早く降らないかな)
愛しい想い人と同じく、雨もなんだか悪い気はしなかった。
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