私は大きく深呼吸をした。

「…ふぅ…その、私もよくわかんないですが、私は多分、この世界の人間じゃなくて……異世界から来た人間なんですよねぇ〜あはは!いつの間にかこのシロガネ山にいたんですよね〜!ははは!」

…うん、何を笑ってるんだ私は。重要な部分は少し明るくに言ってみたほうがいいかなって思ったけど、逆に嘘臭くなったのは気のせいじゃない筈。
私は恐る恐るレッドさんの方を見れば、レッドさんは無表情のまま話を聞いた。信じてくれてるのかいないのか表情じゃわからない。ただ真っ直ぐ綺麗な赤い瞳で見つめてくる。
今の話にはひとつも嘘はない事は紛れもない事実だ。だが信じがたい話ってのもまた事実。
あーもー!考えたって仕方ない!なんでもこい!わかってるよ!信じないんだろ!!

「…信じるよ」
「ほらみろ!信じないだろ!!…って、え?ほ、本当です…か?」

無表情だが真剣なのは瞳で伺えた。彼はまた小さく首を縦に振った。

「うん」
「えっえっ本当の本当に信じるんですか!?異世界とか言ってるんですよ!?頭おかしいって思わないんですか!?」
「……ミハルの目、嘘付いてるようには見えない」

レッドさんが天使にみえた。まさか信じてもらえるとは思ってない私は感動して涙が溢れそうになる。

「……何で泣いてるの?」
「あ、…ご、ごめんなさい、色々不安だったからやっと初めて安心できたというか…帰る家がないんだって……実感…し…ふぇ……ヒック…」

人間と言うとものは面白いもので安心すると余計な事まで考えてしまう。それが考えたくない現実な事でも。
この世界では大好きなサヤカちゃんに逢えない、家族にも逢えない、家に帰れないっていう現実を。
そう思えば思うほど抑えてた涙がまたどんどん溜まり、そして溢れた。一度出た涙は歯止めが効かなくなって、止めることが出来なくなる。

止まれ!止まれ!こんな所で泣いたらレッドさんがすごく困っちゃうよ!

「…っく…ぅあ…ヒック…ぅうう…っ!」

止めようとすればするほど全然止まらなくなる。むしろ、どんどん溢れていく。きっとレッドさん困ってる。でも、今の私にはレッドさんの顔を見る余裕なんてない。

「っ…止まって…よぉ……っぇ!?」
「…」

必死に涙を止めようとしていると、レッドさんは優しく私抱きしめてくれた。レッドさんはずっと無言だけど優しく私の背中を撫でてくれた。それはとても優しく。あまりにも優しすぎて、私は彼の胸でいっぱい泣いてしまった。





どれくらいの時間が経ったのだろうか。10分かもしれないし1時間かもしれない。私はずっとレッドさんの胸の中で泣いていた。
やっとの事で涙が収まると、ふと我に返る。

「うぎゃあああ!す、すみません!!泣いたりs…えっ…」
「…大丈夫」

私は慌ててレッドさんの体から離れた。と思ったらまた抱きしめられた。
男の人に、しかも、レッドさんみたいな美形に抱きしめられるのも初めてで混乱しか出来ない私にレッドさんの行動の意味を考える事まで出来ない。
兎に角、今は一刻も早く離れなければ!じゃないと私の心臓が持たない!
そんな私の事なんかお構いなしに、離すまいと更にレッドさんは腕に力を入れる。

「…俺のところ、住んでいいよ」
「…………ぇ?」

いきなり抱きしめられたかと思えば今度は予想外の言葉がレッドさんの口から漏れた気がした。えっと……今、ここに住んでいいって言ったの?

「ぁっ、い、いやいや!そんな無理しなくていいですよ!!」
「…無理してない」

いやいや!住むって!シロガネ山に!?つまり、この雪山に住めってことか!?
レッドさんはこんな吹雪が凄いところでも半袖で住める程に最強だから生活出来ただろうけど一般ぴーぽー且つポケモンも持ってない私がここに居たらどうなることやら!
それにこんな美形といきなり同棲だなんて私の心臓が持たないよ!
迷惑だろうし、こんなデブスと一緒にいたって得なんてない!(←これが一番重要)

「…遠慮するな」
「〜〜っ!」

私が全力で拒否するも、レッドさんのそれはそれは綺麗な赤い瞳で真っ直ぐ鋭く見つめられる。狡いよ。
そんな真剣な眼差しで言われたら…断れる女の子はいないと思います…っ!
…どうせ、当てなんてなかったし、いいのかな……いいのか、な?

「………よろしくお願いします…」

私は俯きながら小さな声で承諾する。レッドさんからの返事はない。沈黙が長く続いたので、私は恐る恐るレッドさんの見るべく顔を上げる。

「…ん、よろしく」

視線が合えばレッドさんは嬉しそうに少しだけ笑ってそう言いもう一度私を抱きしめた。私は耳まで真っ赤に違いない。そんな笑顔見せられたら、断れないじゃないですか。狡いです。狡すぎです。可愛すぎるでしょ!
レッドさんってクーデレって聞いたけど全然そんな感じじゃないし、これはどういう事なのだ。

こんな綺麗な人と住んで私の心臓は持つかどうかが心配なのだが…!



(もうどうにでもなれ!)


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