「ん…」
此処は病院?にしては硬いベッドだな。だとしたら天国かな?天国ってこんなに寒いところなの?
いろんな想像を頭に巡らせながら私は重たい体を無理矢理起こす。此処は何処だ。起きたばかりの私の頭に最初に過ぎったのはその言葉だった。
私は確か…車に轢かれて事故に遭った筈…なのに、体に痛いとこは一切なくむしろピンピンしてる。怪我的な意味で痛いのではなくて寒さ的に今は痛い。後はとても体が重いくらいだ。
「此処は…何処かの洞窟?」
弱い頭をフル回転させながら出せた答えはこれだけだ。後は外がすごく吹雪である。そんな時期ではないはずだ。てか日本とは思えない吹雪だ。
詮索しようにも体が鉛のように重くて立とうにも立てない。まだ頭もクラクラするし、寒いせいなのか眠たいとも感じる。
まず、私はまだ生きてるのか?それともここは天国ではなく地獄なのかな?私そんな地獄行きに成る程の悪い事はしてない筈だけど…。クラクラする頭じゃ変なことばかり考えてしまう。
…―ッ!
「…え?」
突然、背後から今までに聞いたことのないような声が聞こえた。
否、違う。聞いたことあるけれど…――
「ぃ…いわーく…?」
私が居た世界に居ない筈の…イワークの鳴き声だ。案の定、振り向けば私の知っているイワークがそこに立っていた。距離はあるが確かにあれはイワークだ。
なんで、ここにイワークがいるの?もしかして、これは夢なの?そうに違いないな!まさか、事故に遭ってポケモンの世界に行ってるなんてトリップ在りがちな展開みたいな事になってるわけがない!ははは!
って、なんて能天気なこと考えてる暇はない。今まさにイワークはジリジリと近づいてくる。
夢だとして、ここは取り敢えず逃げなくては。
「…っ!」
逃げるにも、鉛のように重い今の体では立つことさえもままならない。これは非常にやばい。
そんな私の事情なんてお構いなしにイワークは少しずつ近づいてくる。更にやばいことにリングマやゴルバットまでやってきた。
もうだめだ…!どうにもならないと逃げる事を諦めた私はただ目を強く閉じることしか出来なかった。もうどうにでもなれ…!
――…そうおもった瞬間だった。
「……ピカチュウ、十万ボルト。カメックス、ハイドロカノン。」
凛としてとても綺麗な声が洞窟に響き渡った。と、思った次の瞬間物凄い轟音と豪風、ポケモンのであろう悲鳴が洞窟に響いた。
そして、音が止み、私はゆっくり目を開ける。視界に映ったのはカメックスであろう生き物の背中とピカチュウであろう生き物を背中に乗せる赤い服を着た青年だった。
その青年はゆっくりと私の方に目をやる。私と彼の視線が自然とぶつかる。私は彼の瞳を見てただただ驚くしかなかった。
彼の瞳は燃えるような赤だった。私はその瞳を知っている。彼もまた私の居た世界には居ない筈の人物…――
―――…この人は…レッド…さんだ。
(原点にして頂点のあの人。)
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