※宿儺さん関連で 超ご都合捏造あります。



普段ゴジョーの家の窓から見ていた高いビルばかりの景色から離れて、今日はゴジョーと山のなか…じゃなくて、呪術高専に来た。
車を運転してくれたイジチにお礼を言い、わたしとゴジョーは森の中を歩いている。

「高専、すごい。トト●いそう」
「あはは、あんな可愛いのはいないなぁ。…じゃあまずは、僕の自慢の生徒に会いに行こう」

ついておいで、と言って歩き始めたゴジョーのあとを追う。
時折見える建物はどれも目新しくて キョロキョロ周りを見渡しながら歩いていると、足元に飛び出ていた大きな木の根っこに躓いた。

「わっ…、」

前を歩いていたゴジョーが咄嗟に受け止めてくれたおかげで、ふわりとゴジョーの服に顔が埋まる。
驚いて顔を上げると、ゴジョーは面白そうに笑って手を繋いでくれた。

「足元気をつけてね」
「ありがとゴジョー」

ゴジョーの足はとっても長いけれど、今日は私の歩幅に合わせてくれてる。それに気が付いて、自然と頬が緩んだ。

「これから会いに行く子は、訳あって隠れて修行してもらってるんだよね」
「わたしと一緒だね」
「そうだね。ちなみに修行内容も同じだから、話が合うと思うよ」

どんな子なんだろう。仲良くなるために先に色々聞いておきたい。
でも、それを尋ねる前に、わたしの耳が大きな音を捉えた。
今まで聞いたことのない轟音に、思わず音がした方を振り返る。
突然足を止めたわたしに引き止められるかたちで、ゴジョーも足を止めた。
…こんなに大きな音なのに、ゴジョーには聞こえていないみたい。

「ん…どうしたの、なまえ」
「……あっちで、すごい喧嘩してる」
「………あー、確かに距離はあるけど騒いでるね。もしかして、何か見えたりする?」

ゴジョーの言葉を聞いて、試しにもう少し感覚を研ぎ澄ませてみる。
すると頭に直接、音の正体が映画みたいに流れ込んできた。

「大きなお寺…男の子がふたりいて、片方の男の子、血まみれだよ…近くで女の子も乱暴されてる。……ゴジョー、助けに行ったほうがいいんじゃないかな…」
「………(すごい索敵だな)」
「あれ……ゴジョー、でも変だよ」
「ん?どうしたの」
「パンダが助けに来てくれた…。なにこれ?」
「………あははっ、すごいね 本当によく見えてる」

面白そうに笑ったゴジョーは私の頭を撫でると、こっちだよーって言いながら、わたしの手を引っ張ってまた歩き始めてしまった。
………あれ、パンダの説明、してくれないんだ。



ゴジョーに連れてこられたのは、地下室。よくある映画なら、このあとゾンビとか幽霊が出てくる展開だ。心臓がドキドキ言ってる気がする。
ゴジョーの後ろについて階段を降りると、奥から映画の音が聞こえてきた。
わたしには心の準備も前置きもないまま、突然ゴジョーが声をかける。

「悠仁!お疲れサマンサ―!」
「あっ、おはよう五条先生!」
「もう出力マックスでも安定してるね。さすが僕の生徒」

ソファから顔を出したのは、ユージ、と呼ばれたピンクの髪の毛をした元気そうな男の子。
わたしもゴジョーの後ろから顔を出すと、思いきり目が合った。まんまるな目が大きく見開かれる。

「え!?誰!?」

ユウジの大きな声に驚いて何も言えずに、咄嗟にゴジョーの背中に張り付いた。
それを見たゴジョーは、笑いながらわたしを自分の前に引っ張りだす。

「あはは、大丈夫だよ悠仁。この子は俺が連れてきたの。……ほらなまえ。挨拶は?」
「……初めまして、なまえです」
「おー、俺は虎杖悠仁です!よろしく!」

恐るおそるゴジョーから離れてユウジの隣に歩み寄り頭を下げると、ユウジは慌てて立ち上がって、人懐っこい笑顔を浮かべて手を出してくれた。

「……ユウジ、いい人だね」
「え!?まだ名乗っただけなんだけど!?」
「ふふ。いい人だよ」

私も手を出して、ぎゅっと握手を交わす。ユウジのおっきな手は、おひさまの光みたいに暖かい。
握手を解こうとした直前、ユウジの手の甲に口が現れ、ユウジではない低い声が、わたしの鼓膜を震わせた。

「……お前…猫又か?」
「わっ」
「あ!お前勝手に!」

見慣れない光景にびっくりして思わず声をあげると、ユウジが手を離してペチン!と自分の手の甲を叩く。
すると今度はユウジの右目の下にある傷口が開いて、ギョロリとした目が開き、その下には口が現れた。

「わぁ…ユウジ、この人だれ?」
「…ん、なんだその腑抜けた顔は。お前、猫又ではないのか?」
「わたしはなまえ」

猫又なんて知らない、と首を横に振る。

「この子は、特級呪物である猫又の尻尾を取り込んだ…元々は猫だよ」
「ゴジョー?」

いつの間にかわたしのすぐ後ろに立っていたゴジョーは、ぽん、とわたしの両肩を叩くと、少しだけ自分の方に引き寄せてきた。
わたしを掴んでいる手は思いのほか力強くて、動けない。

「なまえも特級呪物取り込んでんの?」
「そ。悠仁と同じだよ」
「へー……確かに猫っぽいよな。…っていうか宿儺、勝手に出てくるなよ」

ユウジも特級呪物を取り込んでいて、それがあの一つ目…宿儺、なんだと察した。
そして宿儺は、ゴジョーやユウジとあまり仲がよくないみたい。
でもなぜか目を離せなくて、じぃっと見入ってしまう。あっちもわたしをじーっと見てるし…。

「………おい小僧、少し俺と代われ」
「は!?嫌だよ、何する気だ?」
「猫又に直接確認したいことがある。……誰にも危害を与えないし殺さんと約束してやるから、早くしろ」
「えぇ……」
「…悠仁、少し代わってみてくれないかな。大丈夫、僕がいるから」

ゴジョーの言葉を聞いたユウジは、困ったように頭を掻くと、わかった、と頷いた。

「……変なことしたら即交代だからな」
「分かったわかった」

……そう言って目を閉じた直後、一瞬で、ユウジの雰囲気が変わった。

閉じていた瞳が開き、二つの目と視線が交わった途端、すごいプレッシャーが襲ってきて、わたしは目を逸らすことも、息を吸うことも出来なくなる。
ユウジ…もとい宿儺は、わたしのすぐ目の前に立つと、少し腰をかがめて目線を合わせてきた。顎に手を当てて、じぃっと観察するように見つめてくる。

「………驚いた。猫又をすっかり取り込んでいるのだな……元の自我は消え、潜在意識としてのみ残っている、と…ふむ……」
「……っ、」
「ほら、ちゃんと息をしろ」

無意識のうちに呼吸を止めていた。
とん、と軽く背中を叩かれると、わたしの口からはぁっ、と大きく息が漏れる。
胸をおさえて呼吸を整えていると、再び赤い目がこちらを覗き込んできた。

「なまえ…という名はいつから名乗っている」
「ゴジョーがわたしを拾ってくれたときに、つけてくれたの」
「……なるほどな」

宿儺はニヤリと笑って、わたしの後ろにいるゴジョーを見た。

「貴様、名で縛っただろう?お前ほどの術士が、手ずから名を与えることの重さを知らぬわけがない」
「……さぁ、なんのことだか」
「しかもなんともまぁ…面倒な名だな。ますます気に入らん男だ。やはりこの身体が手に入ったら、貴様から真っ先に殺してやろう」
「僕がつけた名前にケチつけないでくれるかな」

二人が言葉を交わすたびに、空気がビリビリしてる。…やっぱり仲良くないんだ。
でもわたしは、今の宿儺の言葉は聞き捨てならなかった。

「すくな、」
「ん、なんだ?」
「ゴジョーのこと、殺しちゃだめ」

ゴジョーを守るように両手を広げて宿儺を見上げると、宿儺は目を丸くしてわたしを見た。

「…この男が大切か?」
「うん」
「……俺は仮にもお前の背の君だったんだがな」
「…せのきみ?」

知らない単語に首を傾げると、後ろにいるゴジョーが突然わたしを引っ張ってぎゅっと抱きしめるように抱えこんだ。
今度はわたしが目を丸くして、ゴジョーを見上げる。

「そう警戒するな。記憶のない猫又に乱暴する趣味はない。こやつは特別だ」
「…へぇ。じゃあその特別ななまえのためにも、僕たちに協力はしてくれないのかな」
「調子に乗るなよ」

口を挟む雰囲気じゃない。二人に挟まれているわたしは、ただただゴジョーと宿儺を交互に見るしかできなかった。
宿儺はそんなわたしを見て、大きなため息をつく。

「まあ良い。今日はこのあたりで引いてやる。小僧もうるさいしな」

諦めたような、呆れたような顔をした宿儺は、一度だけ私の頭を優しく撫でた。

「…男を見る目だけはなくなったようだな」
「?」

またな、と小さな声で言った宿儺が静かに目を閉じると、途端に地下室の空気が軽くなった。
次に目を開けた彼は、元のユウジの雰囲気をまとっている。

「五条先生!なまえ!大丈夫だったか?」
「問題なし!悠仁、ありがとね」
「俺は別に……ごめんななまえ、びっくりしただろ?」
「ううん、ユウジ、ありがとう」

心配そうな顔をしたユウジが、私の顔を覗き込む。さっきと同じ顔に覗き込まれているのに、こんなに雰囲気って変わるんだ。
宿儺は悪い人みたいだけど、それでもなぜか、わたしは彼を嫌いだとは思えなかった。

「あ…ゴジョー」
「ん?なまえも大丈夫?」
「わたしは問題ないよ。ねえ、セノキミってなに?」
「……」

わたしを後ろから抱えたまま、黙って考え事をしていたゴジョー。
気になったことを尋ねると、途端に石になったみたいに固まってしまった。

「……ねえユウジ、」
「え、ごめん、俺もわかんないんだけど…」
「ゴジョー、先生なんでしょ?教えて」

身体を前後に揺らしてゴジョーの名前を何度も呼んでも、返事がない。…無視かな。

「あっ、わたし、スマホある」
「お、ググろうぜ」

わたしがポケットからスマホを出した途端、背後から大きな手が伸びてきて、音もなくスマホを奪われた。

「あっ!」
「さーなまえ!次の場所に行くよ!人を待たせてるから、急いで行こう!」
「うわ、先生大人げなくない?」
「…悠仁。このあと七海が迎えに来るから、もう少しここで待っててね」
「おっ、わかった!」

ゴジョーがユウジと話している間にスマホを奪い返そうとしたけれど、そのまま手を掴まれてズルズルと出口へ引っ張られる。
結局あまりユウジと話ができていない気がする…最後に何か言いたい、と目を合わせたユウジの後ろで流れているのは、見たことのある映画だった。

「あ、その映画知ってる。最後親友が裏切って、主人公が派手に死ぬの」
「えっ 突然のネタバレ?!」

五条先生みたいなこと言うなぁ、と笑われた。
笑い合いながらお互い手を振って、ゴジョーに手を引かれるまま、わたしは地下室をあとにした。



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