※ほんの一部、低レベルで下品な表現あります。(えろはないです…)
無事、初めての一人任務を無事終えられた私は今、疲れた身体をお風呂で癒やしたあと、ベッドにアザラシのように寝転んでいる。
4級の呪霊だと聞いていたのに 実際はほぼ2級相当だと言われた時は死んだと思ったけど、運がいいことにめちゃくちゃ私との相性が良かったおかげで、なんとか大きな怪我をせず無事に帰ってこられた。ところどころ怪我はしたけど、寝てれば治りそう。(補助監督さんや先生からはものすごく謝られた)
想定外だった分、たくさん経験値を得られたと思おう。おかげで、今日のお風呂は最高に気持ちが良かった。
(大人になったら、任務後のビールは最高〜…とか言うようになるのかな…)
今はこのふかふかのお布団が最高〜…。
このまま寝落ちそう…と微睡んでいると、突然携帯が鳴った。
驚いて画面を開くと、夏油先輩からの着信。どうしたんだろう?
先週から遠征していたから、高専のみんなには1週間ほど会っていない。
そもそも結構前に連絡先を交換していたけれど、先輩から連絡がきたのは今日が初めてだった。
「…はい、もしもし!」
「チッ…なまえ。俺の部屋。来い」
「…夏油先輩?」
唐突な舌打ちと命令口調に驚いて もう一度画面を確認するも、そこには「夏油先輩」の文字。
というかこの低い声、偉そうな口ぶり、舌打ち…思い当たるのは一人しかいない。(でもなんでちょっと片言なんだろ…こわい)
「ごめんねなまえ、悟がどうしてもって聞かなくてさ」
「あ、本物の夏油先輩」
「早く来いばーか!」
「あー…話してる暇ないみたいだ、ごめんね、今から悟の部屋に来れるかな?大丈夫、僕や硝子もいるし、なまえさえ良ければ部屋着のままでいいよ」
「わ、わかりました」
とにかく早く五条先輩の部屋に来い、とのご命令だということがわかった。
ちょうどよかった、と、任務のお土産を買っておいた私は、その紙袋を片手に五条先輩の部屋がある棟へと急ぎ足で向かった。
週末の静かな廊下を横切り、五条先輩の部屋の前に着いた。
私、五条先輩の部屋に来るの初めてだ…というか、男の人の部屋を尋ねるの、初めてだ…!
そう思うと、急に意識してしまって顔が熱い。
雑念を振り払うかのごとく、思い切り頭をぶんぶんを振って 勢いづけてノックすると、数秒もしないうちに勢いよく扉が開いて 中から黒いスウェット姿の五条先輩が現れた。
「ご、五条先輩、こんばんは」
「………」
「…先輩?」
黙ったまま、頭の先から足元までじぃっと見ている。なんだろう、この品定め感…。
暗い廊下で黒いサングラスって、見えてますか?と聞きたくなったけれど、その前にむにりとほっぺをつままれた。
「!?」
「………」
何度かほっぺをひっぱったり押してきたと思ったら、次は頭をがしがし乱暴に撫でられた。
え、なんでずっと無言なの、こわい。
「こ、今度はなに、」
「…怪我したんだろ」
「あ……少しだけ…」
「……お前 弱っちぃから、死んだかと思った」
心配させんなボケ、と、コツンと頭に軽いげんこつが降ってくる。
…心配してくれたの?あの五条先輩が?
せっかく冷めた顔の熱が、また少し上がった気がした。
恥ずかしくて何も言えずに視線を泳がせていると、五条先輩の目がわかりやすいほどに私の手元にとまった。
「あ…これ、お土産です」
「……やっぱ喜久福じゃねーか!!」
すごい勢いで紙袋を受け取り、お前も早く入れ!と私の腕を掴む。引っ張られるまま五条先輩の部屋に入った。
掴まれた手首も熱い。…いやいや、意識しちゃだめだ!
五条先輩もだけど、私も、今日はなんだか情緒不安定になったみたい。
「お、おじゃまします」
「なまえ!やっと来た!」
「硝子せんぱい!」
部屋を覗くと、案外家具が少ないシンプルでおしゃれな部屋の奥で、夏油先輩と硝子先輩がこっちこっち、と手招いてくれていた。
「しかもずんだ生クリーム…なまえ、まじで最高なんだけど」
「それが一番美味しいんです」
「わかる」
こんなに喜んでくれるなら、もっとたくさん買えばよかった。
招かれるまま、ソファに座っている夏油先輩と硝子先輩の間に座らせていただく。
どうやら今すぐに食べるつもりらしく一人盛り上がっている五条先輩を尻目に、夏油先輩と硝子先輩がそのまま話の輪に入れてくれた。
「ごめんねなまえ、突然呼びつけて」
「大丈夫です!寧ろ光栄です!」
「いや疲れてるでしょー。今日初めての一人で任務で、しかも相手がほぼ2級。ばっちり祓ったらしいじゃん」
やるじゃん!と、硝子先輩にばしっと背中を叩かれる。
思わず照れ笑いで返せば、元気そうでよかった、とホッとしたように一緒に笑い返してくれた。
「私達は、今日は疲れているだろうから寝かせてあげようって言ったんだけれどね」
「五条がなまえを呼ぶって言って聞かなくてさ」
「五条先輩が?」
硝子先輩が指差す方を振り返ると、こちらの会話は聞こえていないのか喜久福をお皿に乗せて大事そうにこちらへ運んでくる五条先輩の姿。
もっとそっち寄れ、と夏油先輩を乱暴に動かして、どかりと私と夏油先輩の間に座る。どこぞの王様みたいだなぁ…。
「先輩、せんぱい」
「あ?なに」
「ありがとうございます。私はご覧のとおり、元気ですよ」
「………っはぁ!?お前、急に何言ってんの気持ちわりぃ」
「えぇ…」
オエー、と言って舌を出す五条先輩と困惑する私を見て、硝子先輩は何がおかしいのか声を上げて笑っている。
でも言われてみれば確かに、あの五条先輩が私の心配なんてするわけなかった。数日パシられていなかったからか、少し感覚が鈍っていたみたい。
「…まぁでも、」
「?」
「怪我せず帰ってきたのは、誉めてやる」
ぽん、と背中を優しく小突かれる。
思わずえへへと笑うと、調子乗んな、と今度は長い足に蹴られた。これが飴と鞭かな。
「えっと……じゃあ、お土産もお渡ししてご報告も出来たので、私はそろそろ帰ります」
「は!?お前、誰が帰っていいって言った」
「へ…」
「お前が帰ったらスマブラできねーだろ。付き合え」
「…!?」
いや…人が足りないならコンピュータとやればいいのでは…!?
助けを求めて夏油先輩を見れば、笑いながら付き合ってやってよ、と言う。硝子先輩も乗り気のようで、私の腕を掴み、無言で帰さないと言わんばかりだ。
「……で、では、ご一緒させていただきます」
「っしゃ、喜久福食った俺に死角はねぇ」
「というかこれ、皆さんへのお土産なんですけど」
「うるせー。この部屋の主は俺だ。お前らはポテチでも食ってろ」
どういう理屈なんだろう。
すみません、と二人に謝ると、『全然だいじょうぶ』と笑ってくれた。……便乗して私も食べたかったとは口が裂けても言えない。
少しご機嫌な五条先輩から、ぽいっとコントローラーを投げ渡される。
「私、カービィがいいです」
「あー、あの何でも食うしもちもちしてるとこ、まさにお前の分身って感じ」
「……泣かせますよ」
「はっ…やってみろよ」
挑発的に笑う五条先輩の瞳が、サングラスの奥でぎらりと光る。
どうやら夜は始まったばかりのようだ。
◆◆
気がつくと、時計の短い針がてっぺんを指そうとしていた。
スマブラで連勝して絶好調だったはずの俺は今、特級すら超える窮地に陥っている。
「……悟、顔。やばいことになってる」
「あっはっは!傑作!写真撮っといてやるよ!」
目の前には、呆れていたり爆笑している同期ふたり。
パシャ、パシャ、とシャッターを切る機械音が鳴る。でも今は、それより心臓がうるせぇ。
「っ殺す」
「動くな悟、なまえが起きる」
「…っ!」
「無下限解いてるあたりが本物感あるな〜」
隣には、俺にもたれたまま気持ちよさそうに寝ているなまえ。
いや、なんでこんな体勢になった?
っていうかなんだこのいい匂い。シャンプーか?当たってるとこ、どこもかしこも柔らかくね?あ、もうちょっと胸当たりそ……は?何考えてんだ俺。変態か?欲求不満か?猿かなんかか?
「初めての一人任務、相当疲れてただろうね」
「それなのに誰かさんに呼び出されて、ゲームではこてんぱんにされて…可哀想に」
「はぁ?こいつも楽しそうにしてたろ」
「まぁね。いい子だよね、なまえ」
すやすやと規則正しい寝息を立てるなまえをちらりと見る。
なまえが祓いに行った呪霊が4級から2級へ更新されたとき、高専はざわついていた。
そりゃあそうだ。祓いに行ったのは数ヶ月前に入学してきた雑魚1年と補助監督だけ。
「悟が助けに行くって騒いだのも無理ないよ」
「でもそれが却下されたら、今度は上に向かって『なまえが死んだら俺がお前らを殺す』だもんなー。怖いこわい」
「…ちっ……」
言葉を返すのも面倒だ。(思いつかないわけじゃねぇ)
あんなに取り乱したのは、そもそも任務で1週間いなくなることをよりにもよって俺に言わず、傑や硝子には伝えてたこいつのせいだ。
ていうか、なんで傑と硝子には連絡先まで教えておいて、俺には教えてねぇんだ。
「お゛えぇ…ゲロでそ」
「!?」
「ちょっ…悟!何してるんだ!」
思い返しただけでもイライラしすぎて頭がイカれそうだ。
俺が寝ているなまえのズボンのポッケに手を突っ込むと、傑も硝子もぎょっとした顔でこっちを見た。
目当てのものがここにあるとわかっていたから、頭を無にして目当てのブツを引っこ抜く。
「携帯…?」
取り出したのは、なまえの携帯。
無言のまま勝手に開くと、待ち受けは硝子と猫と一緒に撮られた写真だった。
確かこの前の休みに二人で猫カフェに行ったとか言ってたな。……かわいい。いや猫が。猫が可愛い。
俺の突拍子のない行動に、傑と硝子は呆然としている。大丈夫だ、俺も何してるかよくわかってない。
そのまま通話ボタンを押して自分の携帯番号にかければ、反対の手に持っていた自分の携帯に、未登録の番号から着信が入った。
「……」
黙ってそのまま通話を切り、再びなまえの携帯を持ち直す。
電話帳の一番上に来るように設定して、『五条悟』と登録した。
「……よし」
満足した俺は、なまえのポッケに携帯を戻し、自分の電話帳にもなまえを加える。
「じゃ、俺もこのまま寝るから。テキトーに帰っていいけど」
「悟…」
「いや…いやいやいや!このままお前と二人にしちゃだめだろ!」
「はぁ?うっせーな。俺ももう眠いんだよ」
やっと我に返った二人が俺の携帯を奪おうとしてきたところを避けると、その勢いでなまえの身体が傾き、俺の膝に頭が乗った。
さすがに騒ぎすぎたのか、なまえの目がゆっくり開く。
…いや、なんでお前の顔がおれのちんこの目の前にあんだよ、おい、その半開きのちっちぇえ口にこのまま突っ込んでやろうか。
「ん…?ご、じょ…先輩?」
「………さ…さっさと起きろブス!!」
「……!わ!すみません!!」
ヤバい思考回路を遮るように出した俺の罵声で自分の状況を把握したなまえは、勢いよく目を覚まして身体を起こす。
いやもうなんだよ今の寝ぼけた声。まじ勃つかと思った。
恐らく俺はこの上なくやばい顔をしていたらしく、硝子がこっち軽蔑の目を向けながらなまえの腕を引き、俺から引き離そうとする。
「ほらなまえ、私と一緒に部屋に帰るぞ」
「あ…もう解散ですか…?五条先輩、夏油先輩、おやすみなさい」
「おやすみ、なまえ。ゆっくり休むんだよ」
「はい、ありがとうございます!……あの、五条先輩」
眠そうにしながら俺と傑におやすみを言ったなまえ。
突然名前を呼ばれ、あ?とだけ返事を返すと、申し訳無さそうにしながらこちらを上目遣いで見ている。…無意識ってこわ。
「寝ちゃってすみません…次は絶対寝ないし、負けないので!また、リベンジお願いします」
「おう。次もハメ技きめてやるよ」
はぁ?なまえにハメ技?下ネタかよ。
つか違うだろ、『またいつでも俺の部屋来いよ』って言えよ俺…!
一人悶絶している俺を、今度は傑まで憐れみの目を向けてくる。
「ほらなまえ、早くこの獣から離れるぞ〜」
最後は硝子が首根っこを引っ張るかたちで無理やり連れて行かれた。
バタン、と扉が閉まる音とともに、傑が珍しく声を上げて笑い始める。
「あははははっ…悟、お前……頭んなか小学生だろ…っ」
「うっせぇむっつり野郎」
「……それって私のことだったら聞き捨てならないけど、今日だけは見逃してあげるよ」
なまえが触れていた左側が、やけに熱い。
さっき眠いとか言ったのは撤回だ。今日は恐らく、眠れそうにない。
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