ゴジョーに連れられて高専にもどったわたしは、異常が全くみられないということでその日のうちに帰宅を許可された。
わたしを診てくれたショウコは、顔を合わせたときは驚いていたけど割とすぐに受け入れてくれた。
寧ろ『なまえと瓜二つなのにあほっぽくて刺さる』ってよくわからないことを言ったあと、『私達も大人になったな』とゴジョーと二人で笑っていて少しだけ安心した。

ゴジョーやヤガ学長には、部屋を抜け出してから高専へ帰ってくるまでの間の覚えていることを全部話した。
と言っても、宿儺の指と九相図を盗んだのはマヒトだということと、わたしの記憶は呪術または縛りによって消されていることくらいしかわからなかったけど…。
記憶を消すのはすごく高等な呪術で、それができる呪術師は直近では確認されていないと言われた。
…わたしは誰に会ってたんだろう。
思い出そうとすると頭が締め付けられるように痛くなるから、心配したゴジョーからはきつく止められた。


もやもやした気持ちは残りつつも無事ゴジョーと一緒に帰宅したわたしは、夜ご飯もそこそこにお風呂を済ませていた。

「ゴジョー、おふろ、いただきました」
「ん。なまえ、こっちおいで」

先にお風呂を済ませて寝室でヘッドボードにもたれてスマホをさわっていたゴジョーが、投げ出している長い足の間をぽんぽんと叩いた。
ひとまずベッドに上がって足の間に収まるようにゴジョーと向き合って正座すると、ゴジョーは笑いながらちがうよーと言ってわたしの両脇を抱えて持ち上げる。
身体を反転させられれば、ゴジョーを背もたれにするように座らされていた。
慌てて離れようとすると、後ろからぎゅうっと抱きしめられるように引き止められてしまう。

「ゴジョー、」
「んー?」
「ち、近い」

わたしの顔のすぐ横、左肩にゴジョーの顔がこてん、と乗っかってきて、身動きが取れない。
洗いたてでさらさらの髪の毛が首筋にあたってくすぐったいし、緊張して、心臓がドキドキばくばくうるさくて、吐き出せそう。

今日の夕方、ゴジョーに好きって言ってもらってから、わたし、なんだか変だ。

ゴジョーが今まで以上にかっこよく見える。
目が合っただけでドキドキして、顔を覗き込まれると頭が真っ白になるし、手を繋がれると耳まで熱くなるし、優しい声を聞くと心臓がきゅーってする。

「だってなまえ、僕のことすっごく意識してるから」
「意識?」
「僕にドキドキしてるでしょ」
「……うん」
「…かわい」

わたしのこのおかしな現象は、全部ゴジョーのことを”意識”しているから。
全部見透かされていたのが恥ずかしくて後ろからまわされているゴジョーの腕に額を押し付けて顔を隠すと、可愛い、と言ってゴジョーが耳元にキスしてきた。
びっくりして顔を上げると、どうしたの?と首をかしげる。

「ご、ごじょー、今日、変…!」
「そんなことないよ。僕、ずっとこうしたかったし。…やっと何も隠さずになまえのこと愛せるんだから」
「え、えっと…」
「これまで、僕、超頑張ったんだよ?」

よくわからないけどつまり、今までは我慢してたってことかな。
ゴジョーがわたしのことで何か我慢するのは嫌だ。だけどこんなの、心臓がもたない。

「す、好き同士って、すごいね…」
「こんなの序の口でしょ」

ね、と言ったゴジョーの大きな手がわたしの手を掬い、指を絡めるようにして握りながら、ちゅ、ちゅ、と可愛い音を立ててこめかみや頬にキスを落としてくる。
これって序の口なの?だってこんなの、今までしたことない。
かちこちに固まっているわたしを見てひとしきり笑ったゴジョーは、一息つくとわたしをぎゅっと抱えなおす。

「今日は色々あったね。……本当、無事で良かった。特級呪霊と遭遇して記憶以外は無傷なのはほぼ奇跡なんだからね」
「うん」
「もうずぇぇったい、僕に黙って勝手なことしないで」

特級呪霊って、マヒトのことだ。
確かにあのまま戦っていたら、最悪殺されていたかも。というか、どうして無事だったんだっけ…。
改めて記憶をたどると、ふと、ピンク色の髪の毛ときれいな和服が頭に浮かんできた。

……そうだ、宿儺。

どうして忘れてたんだろう。
言っても言わなくても怒られる気がするけど、言わない選択肢はないので、恐るおそるゴジョーの腕のなかで再度向き合うように振り返り、青い瞳を見上げる。

「ご、ゴジョー…怒るかもしれないけど、聞いて…」
「なになに?」
「……無傷だったのは、宿儺が助けてくれたから…」
「は?」

可愛らしく耳を傾けてくれたから少しホッとしたのに、宿儺の名前が出た途端、あからさまに不機嫌な顔でわたしを見下ろしてきた。顔がこわい。

「ちょっと待って。悠仁から宿儺が噛み付いたって話は聞いたけど関係ある?宿儺は何も言ってなかったんだけど」
「わたしの右手に噛み付いたときに、残穢を残してたんだって。危ないところで、わたしの呪力を使って出てきてくれて…」
「…ふーん……ここか。確かにうっすら傷跡がある。硝子、見落としたな…」

ゴジョーは小さな声で独り言を言いながらわたしの右手を握ってじぃっと見る。
……そんなに見られても、ちょっと気まずい。
そういえば、残穢はすっかり消えてるけど、自然と綺麗に消えるものなのかな。
わたしも一緒になって目を凝らしていると、唐突に口を開けたゴジョーが、薄く残る傷跡にかぷりと噛み付いた。

「!?ご……へ…、!?」
「ん……っ、ちゅ……ん、よし」
「…!?、……??!」

満足したゴジョーにやっと離された掌を慌てて見ると、くっきり綺麗な歯型が残っている。
何が起こったのか全然理解が追いつかなくて言葉を失っていると、気を取り直して、とゴジョーは何も無かったかのようににっこり笑いかけてきた。

「他の男の痕つけて帰ってくるなんて、躾が足りてなかったかな」
「え、ご、ごじょー、」
「今日は初日みたいなものだから。これで許してあげる」

今日のところは見逃してもらえるらしい。ほっとしていると、正面からぎゅうう、と抱きしめるというよりは、のしかかられた。…重たい。

「なまえは僕のものだよ」
「うん」
「で、僕はなまえのもの」
「え……わたし、ペットなのに?」
「………、」

ご主人さまがわたしのものって、そんな身の程知らずなことあるの?
思わず聞き返すと、ゴジョーが鉄砲玉を食らったような顔をして固まってしまった。
なにかおかしなことを言っただろうか。首を傾げてゴジョーの目の前で手をひらひらさせれば、我に返ったゴジョーが目頭を抑えて大きなため息をついた。

「…僕が悪い。ちゃんと言ってなかったかも」
「?」
「なまえ、聞いて」

大きくて分厚い手が、わたしの両手をきゅっと包んだ。
宝石みたいにキラキラした優しい目が、わたしをまっすぐ見つめる。あまりの綺麗さに息を呑んだ。

「……好きだよ、なまえ。これからはペットじゃなくて、僕の恋人になって?」
「………え…」
「断るつもり?」
「……いいの…?」

びっくりしすぎて、言葉が出てこない。三文字口にするのが精一杯だった。
好きって言ってもらえただけですごくすごく嬉しいのに。
わたし、人間じゃないのに。なまえさんじゃ、ないのに。
無意識にぎゅうう、とゴジョーの両手を強く握っていた。慌てて手を離すと、大きな手がわたしの頬にふんわり添えられる。

「今のなまえがいい。……いや?」
「………うぅん…!」
「わっ、」

嬉しくて夢みたいで思わずゴジョーに抱きつくと、驚きながらもしっかり受け止めてくれた。かっこいい、大好き。

「嬉しい、ゴジョー、好き…大好き…!」
「ん…ありがと。僕も、なまえが大好き」

上手に言葉に出来ないのがもどかしくてゴジョーの胸板に額を擦り付けると、よしよしと撫でられた。
ゴジョーの腕の中からゴジョーを見上げる。
こんなに綺麗で優しくてかっこよくて最強のご主人さまが、今日から、わたしの恋人。
まだ信じられなくてくふくふと笑っていると、ゴジョーも嬉しそうに微笑んだ。

「なまえ、明日はデートに行かない?」
「え…交流会は?」
「さすがに明日は一日お休み。二日目は明後日だから、明日は一日オフなの」
「……行きたい…ゴジョー、早く寝よ」

慌ててゴジョーの上から降りてタオルケットにくるまると、わたしの隣に横になったゴジョーがぎゅうっと抱き枕みたいにわたしを抱えた。

「わ、重いよゴジョー」
「……なまえ、いい加減僕のことも名前で呼んでよ」
「………ぅ…」

突然の申し出に、身体が固まる。名前って、下の名前のことだと思うんだけど合ってるかな。

サトル。

………心のなかで呼んだだけなのに、あまりの恥ずかしさに顔を手で覆うと、ゴジョーは駄々をこねるみたいに、抱えた私ごと左右にゴロゴロと転がった。

「だってなまえ、僕以外のみんな名前で呼んでるでしょ」
「そ、そうかも…」
「かもじゃなくて、そうなの。ほら早くー」

声色はいつもどおり優しいけど、目と腕力が本気だ。
転がるのを止めて軽々とタオルケットを剥いできたゴジョーは身体を起こして、わたしを跨ぐようにして馬乗りになったかと思えば、両手をぎゅっと握って押さえつけ、そのキラキラ光る瞳でじぃっとわたしを見下ろした。
マウントとられた、逃げられない…!

「ぇ……と…」
「もしかして名前忘れちゃった?悟だよ、さーとーる」
「忘れてない!」
「本当かなぁ」
「ほんと!」
「じゃあ呼んでみて」

楽しそうに目が細められる。なんでこんなに恥ずかしいんだろう…今、絶対耳まで赤い。
ゴジョーのことだけは、どうしてか名前で呼ぶのは特別に感じられた。
こくりと小さく息を呑んで、自然と震える唇を開く。

「さ……さと、る、」
「んー?なに、聞こえないなぁ」
「〜〜っ!……サトル、」
「……やーっと呼んでくれた」

嬉しい、と言ってぎゅうっと抱きしめられる。
大きな身体は重いしまだ耳まで熱いけど、…サトルが嬉しいなら、わたしも嬉しい。
そろりと大きな背中に腕を回すと、耳元にあったサトルがはぁ、と熱い息を吐く。少しくすぐったくて身をよじれば、それを見たサトルは、何を思ったかわたしの耳を口にかぷりと含んでジュルリ、と吸ってきた。

「にゃぁ!?」
「……あはは、かわいー声」

ちゅ、と少し恥ずかしい音を立てて離れていったものの、驚きのあまり口をぱくぱくすることしかできない。

「ご、ゴジョー、なに、食べ、っ」
「さーとーるだってば」
「ぁ、えっと、だって、!」
「もー、慌てすぎ。まだなまえには刺激が強かったかな」

ぽんぽん、と子ども扱いするようにわたしの頭を撫でたゴジョーは、わたしの上から退いてどさりと隣へ寝転がると、ぎゅっと抱きしめてきた。

「僕が我慢できる間に、色々覚えていこーね」
「?」

首をかしげるわたしを笑って流したサトルは、そのまま静かに電気を消すと、おやすみ、と言ってゆっくりゆっくり、眠りに落ちていった。
サトルは一体何を我慢してるんだろう。べつに我慢なんてしなくていいのに。
明日ちゃんと伝えようと決心して、暖かい腕の中でわたしも静かに夢の中に入っていった。

神様どうか、この幸せな日が明日もあさってもずーっと続きますように。


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