お昼ごはんもそこそこに、ゴジョーはわたしを日当たりの良い校庭へ連れ出してくれた。

高専はそこかしこに結界が張ってあって複雑な建物も多いから徘徊し甲斐がありそうだと話すとゴジョーは笑ってたけど、割と真剣な顔で『僕から離れちゃだめだよ』と言った。
そして、結界はテンゲン様が張ってるんだよ、と教えてくれたゴジョーの顔は少し曇っていたから、もうこの話についてはあまり聞かないことにした。

「…そうだ。今から会う子たちには、悠仁が生きてるってことは内緒にしてね」
「うん、わかった」

人差し指を口に当てたゴジョーは、さながら悪戯っ子の笑みを浮かべてすっかりご機嫌だった。
…ユウジは隠れてるって言ってたし、何か事情がありそう。ボロが出ないようにしよう。

大きな校舎の角を曲がると、広いグラウンドの木陰に数人が集まっていた。
その中に一際大きな影がひとつ…一度は目を疑った黒と白の大きな体が目に入り、思わず言葉が漏れる。

「…パンダ」
「なまえは一度、顔だけ見てるんだっけ」
「うん…あっちの怪我してる男の子も見た」
「あれは恵だね。ほら、挨拶しに行こうか」

ゴジョーは彼らに大きく手を振りながら、わたしの手を引いて集団に近づく。
上機嫌なゴジョーとは反対に、ゴジョーの声を聞いて振り向いたみんなの顔は、少しげんなりしたように見えた。
…あれ?ゴジョー、嫌がられてるような気がする…。

「みんな!お疲れサマンサ〜!!」
「げっ…悟」
「真希ー、久しぶりに会えた先生に対してその反応はひどくない??」
「おかか…」
「棘まで!」

…やっぱり嫌がられてる!
ここにきてゴジョーへの新鮮な反応に、思わず頬が緩むのがわかった。

(だ、だめだ、ゴジョーが嫌がられてるのに喜んじゃ…)

にやつく顔を誤魔化そうと口の中をキュッと噛んでいると、マキと呼ばれた女の子の隣にいた、茶色い髪の美人な女の子と目が合った。

「その可愛い女の子、どうしたのよ。先生もとうとう犯罪者?」
「見かけない顔ですね」

メグミと呼ばれていた男の子も加わって、あっという間に大勢に囲まれた。
すごい、こんなに賑やかなの、生まれて初めてだ。…というかパンダも喋ってる。すごい。

「は、はじめまして、なまえです…」
「っていうかその服!わたしが銀座で買えなかったワンピースじゃない!」
「大丈夫か?悟に無理やり連れてこられたのか?」
「このろくでなし男にひどいことされてないか?」
「しゃけしゃけ」
「ちょっと…釘崎も先輩たちも落ち着いてください。なまえが困ってます」
「おい伏黒、なに早速呼び捨てにしてんだ?このムッツリ男」
「さり気なく隣キープしてるしな」
「いやそういうつもりは…」
「………ふふっ…」

左右から絶え間なく投げ合われるやりとりが面白くて、思わず声をだして笑ってしまった。
突然笑い始めたわたしを見てみんなハッとしたように黙ってしまったけれど、すぐに一緒になって笑い始め、みんな交互に名前を教えてくれた。
ゴジョーがわたしに会ってほしいって言ってくれた理由が、少しわかった気がする。

「はー、僕の生徒尊い!いいね、青春だね!」
「いや五条先生、さすがにちゃんと説明してください」

いつの間にか少し離れたところに立って謎に手を合わせて何かに拝んでいるゴジョーに、みんなの冷たい視線が刺さる。
…ちょっと嫌われすぎじゃない?
人から慕われているゴジョーを見て寂しいと思った私が言うのもなんだけど、嫌がられてるゴジョーも、これはこれで見ていて少し悲しくなる。

「うんうん。その子はね、猫又の尻尾を取り込んじゃった元々はネコの女の子です!あ、ちなみに尻尾は特級呪物だよ〜」
「「「…!?」」」

親指を立てて楽しそうに説明しているゴジョーとは正反対に、周囲の気温が数度下がった。
一瞬で変わってしまった空気に狼狽えて黙っていると、ノバラが小さく口を開く。

「…虎杖と同じね」
「…ユウジ?」
「なまえ、虎杖を知ってるのか?」
「あっ」

しまった。ユウジのことは内緒って言われたばっかりなのに。
思わず口を両手で煽ってメグミとノバラの顔色を伺うと、眉をひそめて悲しそうにしていた。
二年生の3人も、気まずそうに視線を逸らす。

「……ねぇ、なまえは大丈夫なのよね?」
「こうやって紹介しておいて、虎杖みたいな目に遭うのは二度とごめんですよ」
「………」

…なんでここにユウジがいないんだろう。メグミもノバラも、ユウジのことが大事なんだ。
ゴジョーをじとりと見上げたけれど、涼し気な顔でにっこりと笑って返されてしまった。

騙すようで、みんなにはなんだか申し訳ない。
特にメグミとノバラ…。また三人が再開する時には、その場にわたしもいることができると嬉しいと思った。
思わず両手を伸ばして悲しそうな二人の頭を撫でると、目を丸くして驚いたものの、照れくさそうな顔をして撫でられてくれた。
…なんだか弟と妹ができたみたいで、可愛い。

「今日はそのために連れてきたんだよ。
 ……みんな、交流会に向けて特訓中だよね」
「あぁ。誰かさんが放置してるから、あたしたちで1年をみっちり叩き直してるとこだ」
「うんうん。じゃあなまえと組み手、やってみようか」

ゴジョーの言葉に、今度はみんなは驚いて固まってしまった。
わたしもびっくりしたけれど、これまでツカモトとゴジョーとしかやってこなかった特訓相手が増えることが嬉しくて、思わず目を輝かせてゴジョーを見上げる。

「え!?なまえが吹っ飛ばされたらどうするの!?特にパンダ先輩なんてやりかねない!」
「しゃけ!」
「あはは、当たれば飛んでいっちゃうかもね〜……当たれば、ね」
「どういうことだ、悟?」
「僕でもなまえに攻撃当てるの、結構苦労するんだよ。…それに、今日の恵や野薔薇は手負いでしょ?」

ゴジョーの言葉に驚いたみんなの視線が一気に私に注がれる。少し戸惑ったけれど、一度大きく頷いて返せば、みんなの目がギラリと光った。
ゴジョーが言うに、わたしは呪力や動くものを感知することに優れていて、相手の動きや攻撃が分かるタイミングが普通の人間より速い…らしい。元々猫だったからかな。
加えて猫又との呪力の相性も良いから、無意識に呪力のコントロールが出来ているおかげで、コツが必要な呪力を使った移動や回避・攻撃も、始めからあまり苦労せずにできた。

「…なるほど。お互いいい修行になりそうだ」

パキパキ、と腕をならすマキ。かっこいい。
真似してみたところで上手く骨が鳴らなくて笑われてしまったけれど、全員、気合は十分って雰囲気だ。
おいでおいで、と手招いてわたしを呼んだゴジョーに駆け寄ると、楽しそうに肩を叩いて耳元でコソッと囁いてきた。

「チャンスがあれば、なまえもみんなに一発入れていいからね」
「わかった」
「よし!じゃあこのジャージに着替えておいで。戻ってきたら、特訓スタートだよ!」


◆◆◆


ゴジョーが終わりの合図を出す頃には、雲ひとつない晴天だった空はすっかり赤くなって、校庭も綺麗な夕焼けに染まっていた。
体力はある方だと思っていたけど、こんな大人数を相手にしたのは初めてで、息がきれていてそろそろ身体が動かない。

「おいなまえ、大丈夫か?」
「ま、マキ、すごいね…全然疲れてない」
「あたしは体力あるからな。いや、そうじゃなくてほっぺだよ。さっき一発入っただろ」
「うん!すごかった!速くて避けられなかった!でも次は避ける!!」
「お前、見た目に反してタフだな…」

マキすごいね、と繰り返すと、なぜか少し呆れたような顔で頭を撫でられた。
…マキはお姉さんみたいだ。

「今日なまえに当てられたの、真希の最後の一発だけー?みんなもっと頑張ろうね」

ゼーゼー息を切らせているみんなにパンパン、と手を叩いて煽っているゴジョー。
特訓中の様子を見てわかったけど、わざと煽ったり嫌なことを言ったりしているゴジョーはすごく楽しそうだった。
そしてみんなの嫌がる態度は本心だけど、心の底から嫌ってるわけではないってこともわかった。
やっぱりゴジョーはすごいんだ。

「予知能力でしょあの速さ…」
「玉犬でも追いつかなかった…」
「ゴリラモードでも捕まえられなかったぞ…」
「明太子…」

誉められている気分で少しだけ嬉しいけど、マキには負けちゃった。マキ的には納得がいってないみたいだけど…。
ふと、お昼に会ったヤガ学長との会話を思い出す。
わたしはゴジョーと一緒にいるために、もっともっと強くなりたい。
ぼうっと夕日を眺めていたわたしの隣に、いつの間にか音もなく隣にゴジョーが立っていた。

「なまえ。修行、どうだった?」
「…すごかった。メグミもノバラも怪我してるのにすごかったし、パンダの索敵は勉強になったよ。トゲの呪言って魔法みたいだったし、マキには負けちゃったし、えっと…」
「あはは、実り多くて何よりだよ。」

ぽんぽん、と頭を撫でたゴジョーの手が、そのままするりと下に降り、じんじんと痛む頬を撫でる。

「ここ、痛い?」
「うぅん、大丈夫」

火照った身体にゴジョーのひんやりした手が気持ちよくてそのまま首元まで撫でられていると、ノバラがインコーキョウシ!と言ってゴジョーを怒った。
ちょっと怖かったから、ゴジョーには悪いけど一瞬で距離をとって、近くにいたメグミの隣に座る。

「ねぇメグミ、インコーキョウシってなに?」
「あー…人でなしってことだ」
「そっかぁ」
「否定はしないんだな…」

うん、と頷くと、メグミは空気が抜けたみたいにへにゃりと笑った。

「メグミ、笑うと可愛いね。もっと笑えばいいのに」
「……それ、恥ずかしげもなく言うことじゃねぇよ…」
「?」

今度は眉をひそめて顔を背けてしまった。メグミ、と呼んでもこっちを向いてくれない。
メグミ、メグミ、と繰り返していると、ゴジョーとやりあっていたノバラがこちらに戻ってきて、私の隣に座った。

「というか、なまえはどうして五条先生と一緒にいるのよ?」
「わたし、ゴジョーのペットだから」
「………通報するか」

ノバラは「は?」とだけ言って固まり、怒ったと思っていたメグミは、徐にスマホを取り出した。
誰を呼ぶの?とメグミのスマホを覗き込もうとすると、ゴジョーが慌てて駆け寄ってくる。

「なまえ!恵たちにちゃんと説明して!!」
「悟、人のこと言えないぞ」
「ペットは飼い主に似るって言うからなぁ」
「しゃけしゃけ」

飲み物を買いに行っていたマキたちも戻ってきて、後ろからゴジョーを茶化している。
「なまえ〜!」とわたしを呼びながら泣きついてくるゴジョーが面白くて、今まで無かったいたずら心がくすぐられた。

「わたしはゴジョーの可愛いペットだもんね?ご主人さま!」
「〜〜〜なまえっ!!」
「あはは、面白い顔〜」

私を捕まえようとするゴジョーの横をすり抜けてパンダたちの後ろに逃げおおせれば、耳を赤くしたゴジョーが追いかけてくる。

「悟がいいようにされてる…」
「なまえのおかげで面白いもんが見れたな」
「五条先生にもヒトの心が残ってたんですね」

あっけにとられるみんなの周りをくるくる回って、私はしばらくの間、ゴジョーと鬼ごっこを続けた。
今日いちにちでたくさん新しい出会いがあったけど、何よりゴジョーの新しい顔がたくさん見られたことが嬉しい。
あぁ神様、願わくば明日からも、たくさんゴジョーのことを知ることができますように!


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