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ぺパマリルイのネタバレを含みます




ぎい、と錆び付いた音を立てて、あまり使われていない倉庫の扉が開く。途端に舞い上がった埃にけほりと咳き込みながらも早々に足を踏み入れざっと辺りを見回す。
一般家庭よりはそこそこ大きいがこじんまりとしている倉庫内は特に変わった様子もなく1歩踏み出すたびに舞う埃が蒼眼に映るばかり。本やら木箱やらが床に散乱し足の踏み場もない物置に立ち入った人物──マリオはううんと首を捻った。

城の倉庫からガタガタと、夜な夜な変な音が聞こえるらしい。申し訳ないけれど、調査しては頂けませんか。そんな手紙がポストに投函されていたのが数時間前。特に事件も起きず家で平和な時間を過ごしていたマリオは颯爽とピーチ城に向かったという訳だ。弟のルイージももちろん誘ったのだが、あまり倉庫にいいイメージがない。と同行を拒否、自宅で大人しく夕飯の支度をして待っているよとひらひら手を振った。

こうして冒頭に戻るのだが、はてさてどうしたものかと手持ち無沙汰にヒゲを弄りながらマリオはもう一度全貌を見回した。相変わらず、何の変哲も無い普通の倉庫である。やっぱりチューさんでも出たのかなあ、もう少し奥も見てみよう。集積した本を崩さないように慎重に歩を進めたマリオの視線が、偶然にもそれを捉えた。

「…あれ、この本」

幾多の雑多な本が敷き詰められた本棚に、一際厚く目立つ本。マリオはその本を知っていた。少し前の話だ。忘れるはずもない。この本のおかげでとんでもない冒険に巻き込まれてしまったのだから。

「前もここにあったって聞いたし、ピーチ姫が元の場所に戻したのかな」

もうあんなことになるのはごめんだけど、ペラペラなボクやピーチ姫とはもうちょっとゆっくり話したかったなあ。そう独り言をしながら背表紙を撫でる。それも偶然。マリオがこの倉庫を訪れたのも、この本を見つけたのも、独り言を言ったのも。たくさんの偶然が重なって、皮肉にも彼の願いは叶うこととなる。

本から視線を逸らし、本棚の上にでも原因があるのかと踵を返した背後で、先程の本がカタカタと音を立てた。

「わ」

何事かと振り返ったが時既に遅し。本は独りでに本棚からするりと抜け出し、パラパラとページがめくれ出す。目が潰れるかのような鋭い閃光が溢れ、マリオは腕で顔を隠した。そうして悲鳴をあげる暇すら与えず、

マリオは、本の中に吸い込まれた。


**


普段マリオの冒険をサポートする中でどんな物事に巻き込まれて助けられようが怖かったけどさすがマリオさんだなあ、くらいにしか思っていない。キノコ王国の住民はマイペースである。それでもこれには流石に吃驚したのか、ピーチ城のパーティ会場は喧騒に包まれていた。

ぐにゃりと空間が捻じ曲げられ、そこから物でも投げ捨てるようにどさりと落ちた、赤と青の服が目立つ、この世界には珍しいペラペラしていない人物。それを目にした途端ぱ、と表情を明るくしたマリオにそっくり。それもそのはず、気を失っているのかピクリとも動かない彼もまたマリオなのだから!
──にしても。

(あっちの世界で何かあったのかな)

ひとつの本によって引き起こされた破茶滅茶な冒険と出会い。もう二度と会うことはないだろうとおもっていた。しかしこうしてもう一人の自分がやって来た以上、事態は一刻を争うのかもしれない。

「誰か、彼を客室のベッドに寝かせてあげてください。パーティは一旦中止します。」

即座に冷静さを取り戻したピーチが声を上げる。悲鳴やら何やらで阿鼻叫喚と化していたホールは彼女のおかげで少し落ち着きを取り戻し、キノピオ達によってペラペラではないマリオは慎重に客室に運ばれたのであった。

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