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とんとん、と襖をノックした。返事は無い。

「タクミ王子、入るよ」

奥からは物音ひとつしない。まるで部屋全体が死んでいるみたいだった。レオンは構わずに襖を開ける。

うわ、とつい声が出てしまった。明かり一つ付けていない。中は窓も全部閉め切られ一面闇に包まれていて、部屋の中心には髪を結んだままのタクミが背を向けて座り込んだままぴくりとも動かない。傍らには風神弓が置かれている。
いいや、髪がそのままどころではない。この星界に帰ってきて、そのままの格好だ。おそらく湯浴みすら済ませていない。
レオンは額に手を当てて大きなため息をつき、襖をぴしゃりと閉めた。つかつかとタクミの元まで歩み寄る。

「タクミ王子」


「……レオン王子?」

ワンテンポ遅れて、タクミはゆっくりと振り返り返事をした。タクミの向いた側にレオンはいない。全く見当違いの場所を見るタクミの目には、おそらく夜の闇しか見えていないのだろう。レオンは顔を顰めた。

「そっちじゃないよ」

また、見当違いな場所に手が伸ばされた。更に眉間に皺を寄せたレオンが少し乱暴に手を取る。ぴくり、と反応して、タクミの目がようやくこちらを捉えた。

「レオン王子、なにか用?」

なにか用?じゃない!とレオンは叫びたくなった。事実叫んではいないものの声には出ていた。
暗夜で闇に慣れているレオンだからこそ闇の中でもこうして彼の姿をきちんと見据えることができるが、タクミの目はレオンの目でも顔でもなく、ただ時たまにゆらりと揺れる黒だけを映す。そんな状態で長時間に渡って部屋にいただなんて想像しただけでも馬鹿馬鹿しい。

レオンは机の上に無造作に置いてあったランプを引き寄せて火をつけた。いきなり闇の中にぽわりと浮かぶ暖かな光に、タクミは驚いて軽く悲鳴をあげた。

「びっくりした、点けるなら一言言ってくれよ」

ようやくちゃんとタクミと目が合った。暗いオレンジ色の瞳はランプの光に照らされて、ほんのりと赤みがかっている。白い肌はランプを点けていてもわかるくらいに真っ青で、表情だけがいつも通りだった。レオンはタクミの正面に座り込み、眉を吊り上げた。

「明かりもつけないで格好もそのままで、君は一体何をしているんだ」

いつも通りだった表情が僅かに崩れた。レオンには大抵検討はついていたが、このひねくれた第二王子の口から直接聞かないと気が済まなかった。
言わないと許さないという訴えを浮かべながら睨みつけると二、三秒辺りに視線を彷徨わせたあと、諦めたように項垂れた。

「……誰にも言わない?」

「言うわけないだろ」

それか何?そんなに僕は信用ない?と畳み掛けるように問いかけると、焦りながらそんなことない!と首と手をぶんぶんと振る。渋々タクミは口を開いた。

「……泣きそうなんだ、光があるところにいると」

これはまた、想像していたよりも深刻かもしれないとレオンは姿勢を正す。

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