aphrodisiac <1/4>


カーテンの隙間から差す朝日に、俺は思わず目を眇めた。


眩しい。もう朝か。


昨日、一昨日と、ほとんど缶詰めで執務をこなしていた俺は、やっと処理の目途が立った書類の束をまとめた。


その書類の束の脇に、補佐役のライナ宛に一筆メモをしたためると、どっと疲れが押し寄せる。


これでやっと、少しの間仕事から解放される。


俺は軽快とは言えない足取りで執務室を出て、自室へと向かう。


ろくに眠る暇もなかった俺はここ2日程、少したりとも彼女に逢うことすらできなかった。


本当なら今すぐに彼女を訪ね、癒されたいところだが、流石に重い疲れが身体にまとわりついている。


この締まりのない状態は、いくらなんでも格好がつかない。とてもじゃないが、好いた女に見せる姿ではない。


深いため息を吐き出しながら、自室の扉を開ける。


すぐさま熱いシャワーを浴びてさっぱりしたところで、俺はベッドへ倒れ込んだ。


間を置かず睡魔が下りてきて、俺は意識を手放す。


どれくらい眠っていたのだろうか。


ふと気が付くと太陽は既に空を昇りきり、時計の針は午後の領域を刻んでいた。


少し仮眠を取って彼女に逢いに行くはずが、半日を無駄にしてしまった。


今日一日を休みにするために無理やり仕事を終わらせたのは、少しでも長い時間をリリィと共に過ごすためだったというのに。


俺はさっとベッドから起き上がって、身支度を整える。


ふと、サイドテーブルの上のものに目が留まった。


「手紙?」


テーブルの上に置かれた一通の手紙。


ひっくり返して封蝋を確認する。この悪趣味な印璽の型は、イザベラか。


中身を取り出して広げると、シンプルな便箋の中心の方に数行、大人びた字で何事か記されていた。


それに素早く目を通し、俺は訝しげに眉をひそめる。


その手紙の内容は、こうだ。


『おはよう、王子。日頃頑張っているそなたに贈り物をしてやろう。存分に楽しむがよい』


肝心な部分の説明が抜けている。何を楽しめと?


とりあえず手紙を元に戻すと、こんこん、と小さくノックの音が響いた。


誰だ……ライナか?


軽く返事をして、入るように促す。


控えめに開いた扉から顔を出したのは、今まさに俺が一番逢いたかった彼女。


「お前から訪ねてくるとは、珍しいな。リリィ」


「カール、助けて……」


弱々しくそう言うと、彼女は膝からくずおれてその場に座り込んだ。


俯いていて表情はわからないが、肩がせわしなく上下している。


明らかに様子がおかしい。


「どうした、何があった?」


彼女の前に膝をついて問いかけるも、リリィは小さく首を振るばかり。


このままでは埒が明かない。


とりあえず彼女を助け起こして、立たせる。


手に触れた彼女の身体は熱く、気だるげな様子で俺に寄りかかってきた。


「熱いな。熱でもあるのか?」


彼女をソファに座らせ、熱を見ようと額に手のひらを当てる。


リリィはびくりと身体を揺らすと、濡れた瞳でまっすぐに俺を見つめてきた。


「さっきから、熱くて、変なの……」


「風邪を引いたか……いつからだ?」


「さっき、飴食べてから、急に熱くなって……」


「飴?」


問い返しながら続きを促す俺に、リリィは力なくこくりと頷いた。


「お昼ご飯を済ませてお部屋に帰ったら、綺麗な飴が置いてあって……」


「まさか……」


「食べながらついてた手紙読んでたら、だんだん身体が変になってきて……カールなら治せるって書いてあったから、それで来たの」


「そういうことか。イザベラめ、何を考えている」


ひとり呟く俺に、リリィは緩慢な動作で首を傾げた。

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