彼と熱と私(2/3)
「何だ」
すると、すっと視線を外され、顔を背けられてしまう。
おかしい。いつもだったら痛いくらいにまっすぐ見つめ返されて、嫌味のひとつでも言われてからかわれそうなものなのに。
「ねぇ、カール。もしかして、熱があるの?」
思ったまま、上気して見える頬に手の甲を当ててみる。その瞬間、彼はぴくりと肩を揺らしたが、顔を背けたまま押し黙っている。
そっと触れた頬は、確かに熱かった。
「すごい熱……どうしてこんな状態で仕事なんかしてたの!?」
「仕事をしていた方が、気が紛れる」
ぼそり、と返答した彼の言葉に、私は呆れかえった。
信じられない、とそれ以上二の句が継げなくなっている私に、彼は視線をさ迷わせながらはっきりしない声音で喋る。
「お前にこんな情けない姿を見せたくはなかったのだが……」
「もう、かっこつけてる場合じゃないでしょ! 少しは食べられるの? 林檎をすりおろしてきた方がいい?」
「いや、これでいい」
カールは力なく首を振って、私が病人食として作ったものを食べ始めた。
食事の量は多くはないが、彼自身の動きが緩慢であり、食べるのに苦戦しているようだ。
傍でじっと見守っていると、しばらくして彼は私の用意した食事をすべて平らげた。
「よかった、ちゃんと食べられて」
私はほっと胸を撫で下ろした。今までよく仕事をしていたものだと思うほど、彼は具合が悪そうだった。
「ねぇ、横になった方がいいよ」
彼がまともな返答を寄越さないのをいいことに、私は少々強引にカールの腕を引っ張った。
「いい。まだ仕事が残っている」
「よくないの! それに今のままじゃ、仕事もはかどらないでしょ」
なおも腕を引っ張りながら言う私に、カールはぼんやりと考えるように視線をさ迷わせる。
「無理してたら、治るものも治らないんだよ?」
英気を養って、充電しなきゃ。
説得に夢中な私の言葉を一応は聞いていたのか、カールははっとしたような表情を浮かべ、次いでにやりと唇の端を持ち上げて私を見た。
「そこまで言うのなら、協力してもらおうか。充電とやらに」
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