ジャック×十夜(ショタ)
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「キングのデュエルはエンターテイメントでなければならない!
キングは1人、この俺だ!!」
部屋に戻ると少年が走り寄ってきた。白いシャツに白い短パンという薄い出で立ちに俺は若干眉を寄せたが、十夜は気にも留めずに「おかえりジャックお疲れ様かっこよかったよ!」とまくし立てる。俺の背後には深影とかいう女がいたので子供の言葉は仕方なく適当に流し、それでも一応機嫌を損ねないよう、こいつの頭を軽く叩いてやった。
「お疲れ様です、アトラス様」
「あ、深影さんだ! こんにちは!」
「ふふ、こんにちは、十夜くん」
「……用がないなら出ていけ」
人懐こい十夜は女の姿を見るとにっこりと笑い明るく声をかけた。女も女で子供好きなのか、俺がいないときでも比較的十夜にはよく話し掛けているようだ。子供……俺と十夜は5つほどしか離れていない。しかしいくら見た目が可愛らしくとも馴れ馴れしく口をきかれるのは非常に不愉快極まりない。恐らくこれを人は独占欲とか嫉妬とか言うのだろうが、だからどうだと言うのだ。恋人を自分の腕の届く範囲内に留めて何が悪い。
俺の言葉にはっと子供から視線を外した女が申し訳ありませんと頭を下げた。大方次の対戦者についての連絡があったのだろうが、そんなことはいつでも聞けるのだから今言わなくとも構わない。とにかく今、女は邪魔だ。
「後ほどまた伺います」
再び頭を下げた女が部屋を後にして、ようやく俺は息をついた。このキングが、歳のわりに随分幼く見えるこの少年を溺愛している姿など見せるわけにはいかない。それは同時に弱みにもなりえるということを、俺は昔、サテライトで学んでいる。
「ジャック、何か飲む?」
「ああ……いや、俺が持ってこよう」
両手を差し出す十夜に脱いだコートを預け、冷蔵庫へと足を向ける。紅茶は淹れ方を知らないので先ほどの女が午前中に作り置いたコーヒーをグラスに注ぎ、十夜の使うグラスにはイチゴ牛乳を注いだ。俺はジュースの類いは飲まないが、気を利かせて冷蔵庫にはそれらが入っている。2つのグラスをテーブルに置き、コートのかかったハンガーをクローゼットにしまおうと悪戦苦闘する少年の軽い体を後ろから持ち上げてやる。
「ありがとう!」
「ああ」
無事にハンガーを吊すことが出来た十夜を抱き上げたままソファに移動し座らせてやると、彼は迷いなくイチゴ牛乳の入ったグラスを手に取った。ここでコーヒーを取られても俺が困るのだが、しかしこいつはこういった子供向けの飲食物がよく似合う。
「ジャック、かっこよかったよ! 俺、すっごくドキドキした!」
「フン、当然だ。キングのデュエルは、」
「エンターテイメントじゃなきゃダメ、だもんね!」
「そういうことだ」
余程テンションが上がったのだろうか。小柄な体が俺の体に寄りかかり、どのモンスターの効果がズルいとかどのモンスターがカッコいいとか、デュエルをしない十夜にしては饒舌に喋っている。イチゴ牛乳を口に含み喉を潤わせた十夜が足を組んでいる俺の膝の上に乗り、甘えるように俺の頬に自身の頬をすり寄せる。これはキスの1つでもくれてやるべきなのか悩みながら、しかし何の警戒もなくじゃれつく十夜が可愛くて仕方なくて、俺は何も言わずに彼の背中を撫でてやった。
「ジャックの次の相手、誰だろ? さっきの人より強いかな?」
「誰であっても俺は負けん。不敗のキング……それがジャック・アトラスだ」
俺を見上げた瞳が喜ばしげに輝くのを視界に収めて額に口付ける。照れ臭そうに笑う十夜がグラスをテーブルに置いて、思い切り甘えるために俺の肩に腕を回す。
「俺、早くジャックのデュエルみたい!」
首もとに埋められた頭を撫で少年の肩越しにコーヒーを喉へ流し込んだ。俺が勝利することは当然であり必然だが、それでもこうして迎える勝利後のティータイムは紛れもなく、俺にとっての祝福だった。
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