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遊星×士季
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 恋人に会うのは久し振りだった。好きに生き、趣味を活かして修理屋を営む俺と違い士季は高校生という学生の身分で、しかも今年は卒業の年である。学業の最中、様々な引き継ぎに日常を追われ、進学に備えて学費を稼ぐためアルバイトにも精を出し、体を休めるのは深夜になる頃だと以前話をした。
 そんな中でいくら交際しているとはいえ俺と遊ぶ暇など彼にはなく、俺も俺でここを留守にすることも多いため、恋人という名目にしてはやや物足りない、文字だけの短いやり取りをする日々が続く。最後にこうして顔を会わせたのは少なくとも数週間も前のことだ。久しく見る青年の顔は寝不足による隈があり、数週間前に見たときよりも疲れているように思う。
 忙しい合間を縫って顔を出してくれた恋人は、今はその疲労の溜まった体を長椅子の上に横たえて静かな寝息を立てていた。片方の腕を投げ出して、もう片方の腕は腹の上に乗せている。つい先ほどまで話をしていたのだが、返事が途切れたことを不審に思い振り返れば彼は目蓋を閉じていて、その姿はまるで機械がシャットダウンしたかのようですらある。色の白い肌には不健康な青みが差し、しかし今はその頬を夕陽の炎が舐めていた。今夜は7時からバイト先の居酒屋で5時間の勤務に従事すると言っていた彼は学校終わりの制服姿のままで、そんな彼を起こすのは忍びなく、俺はなるべく大きな音を立てないよう殊更慎重に工具を手繰る。規則的な秒針の音と不規則な金属音が、刹那的な至福の時間を刻んでいく。

「ん……」

 ゆっくり寝かせてやりたいのは山々だったが何分彼は7時からバイトがあると言っており、俺がボルトを外している間にも時計の長針は着実に進んでいた。6時を10分ほど過ぎて、そろそろ起こした方が良さそうだと考えたとき、今まで吐息だけを零していた士季が微かに声をあげる。オレンジ色に染まった2人きりのガレージにそれが反響し、振り返れば肉のない腕が僅かに揺れていた。肌触りの良さそうな白い頬は夕陽に燃えていて、同じ男とは思えないほど線の細い彼にはまるで、そこだけ絵画を切り取ったかのような澄んだ美しさがあった。

 握っていたレンチを床に置き士季の頬へ手を伸ばす。滑らかな彼の肌と違い、油で汚れた俺の手は如何にも硬そうな皮膚に覆われ骨張っている。彼に触れたら汚してしまいそうで、指で触れるのは躊躇われた俺は代わりに手の甲でその頬を軽く撫ぜる。外気に晒され冷えた肌が俺の体温を緩やかに冷やしてくれる。

「ん、ん…………遊星……?」

 薄い目蓋が持ち上がると闇よりも少し淡い色をした黒い瞳が揺れて、視界に捉えた俺の名を呼んだ。「丁度起こそうと思ったところだった」そう告げれば現状を把握出来ていなかった彼の頭が高速で回転したようで、目を見開いた瞬間、腹筋と腕の力を使って長椅子から飛び起きる。

「ヤバイ! バイト!!」

「7時まであと30分以上ある。寝坊はしていない」

「よ、よかったぁ……」

 今にもガレージから飛び出して行きそうだった士季にすかさずそう言うと彼は辺りを見回して時計を確認し、やがて安堵したようにため息をついた。夕方のシフトは忙しく人手が足りない、そんな理由もあって遅刻するわけにはいかないのだろう。

「悪い、寝てたみたいだ」

 頭をかき、バツの悪そうな苦笑いを浮かべる様子に俺は首を横に振る。毎日毎日体を酷使しているのだから、無理が祟る前に、眠れるときには優先して睡眠を取るべきだ。欠伸を噛み殺しながら「疲れてんのかなぁ」などと気の抜けた感想を呟く士季の頬に再び手の甲を押し付けると、彼は寝起きで赤らむ顔を歪めるように笑ってみせた。困ったようなこの笑顔が、俺は好きだった。

「遊星の匂いがあると安心しちゃうのかもなぁ。会うのも久々だしさ」

 防錆油の付いた俺の手を士季の手が包む。自分に比べれば線が細いと感じるもののやはり彼もまた男で、触れた手からは皮膚に覆われた骨と筋肉の感触が確かにあった。目を閉じ、繋いだ俺の手へと頬を摺り寄せ匂いを嗅ぐ。俺の鼻には油と金属の臭いしか判別が付かないのだが、士季の嗅覚には俺の匂いというものが届いているのだろうか。腰を屈めて長椅子に片膝をつき士季の顔へと距離を詰めると、彼は慌てたように視線を彷徨わせた。考えていることが読みやすい男だ。

「や、遊星、俺このあとバイトだから……」

「分かっている。しかしキスくらい構わないだろう?」

 覗き込んだ目には困惑が浮かんでいたが、俺も久し振りに顔を合わせた恋人を堪能したかった。恐らく今日が過ぎればまた会えない日々が続く。それが別段つらいなどと言うつもりはないが、折角人目のない2人きりの空間なのだ、キス程度、許されてもいいはずである。
 うーんと唸った士季が小さく頷く。制服を汚すわけにはいかないため握られた手はそのままに、反対の手を長椅子の後ろの壁へと当てた。唇で触れた士季の唇は柔らかく、少し乾燥している。恋人は接触する寸前に目を瞑っていて、初々しい反応に頬が緩んだ。

「士季、舌を入れてもいいか?」

「……キス以上はしないからな」

「ああ。キスだけだ」

 それだけ念を押されると期待されているのかと勘違いしてしまいそうだ。ひとまず合意を得たので早速唇を喰む。薄いわけではないが肉厚というわけでもないそれは暖かく、舌でなぞると僅かに開かれて、体重を掛けるように体を寄せつつ舌を差し込んだ。士季の手に力がこもり、俺の手が締め付けられる。微かに汗ばんだそれが、俺に彼の緊張を伝えてくれる。
 口腔は当然唾液で濡れていて、舌を伸ばすとすぐに彼の舌に当たった。擦り合せるように弄れば応えるようにして舌が蠢き俺の舌先を擦る。頭の芯に熱が篭り、それは緩やかに腹へと降りていく。舌を動かす度にクチュクチュという水音が鳴る。

「ん、んん……はぁ……ん……」

 士季もまた熱に浮かされた吐息を漏らした。気分が乗ってきたのか彼が俺の舌を軽く吸い、疼痛にも似た甘い痺れが尾てい骨へと広がっていく。俺も士季の舌を吸った。俺の鼻には彼の体臭などというものは察知出来ないが、こうして舐める彼の唾液の味は認知出来る。甘い、脳を痺れさせる味だ。彼の口腔に溢れる唾液を舌でかき混ぜ飲み下す。

「キ……ス、以上は……ひない、からぁ……」

 辿々しい口調で士季が嗜めるが、その目は快楽に蕩けているのが一目瞭然だ。発言を妨害するようにその舌を舐めしゃぶれば士季の喉がひくりと戦慄いて握られた手が更にきつく締め付けられる。角度を変えて上体を下げる俺を追うように士季の顔が俯いた。口を離せば伸びた舌から細く唾液が流れ落ちて、俺は舌でそれを受け止める。士季の唾液を飲むにはこの体勢が丁度いい。興奮により嚥下出来ず溢れるばかりの彼の唾液を舐め、飲んで、それでも物足りなくて舌で口腔を探った。ちゅぱ、じゅぱ、ぐちゅ、酷い音が止まずに響き続ける。
 夢中になってキスを味わう恋人を尻目に時計を確認する。6時20分……バイト先までここから徒歩で約15分。バイクで送れば5分足らずで着けるだろう。もうしばらく堪能しても遅刻することはないはずだ。

「士季、下を脱いでくれ。つらいだろう」

 体重をかけ、長椅子に彼の体を押し倒すように誘導した。蕩けていた瞳が現実に戻ったように刮目したが、正気に戻る前に俺は彼の耳元に顔を寄せた。白い耳朶を舌でなぞって穴の中へと侵入させる。士季の細い悲鳴が上がった。

「最後まではしない。触りたいんだ……駄目か?」

 唾液を絡めた舌で耳の穴をゆっくりと舐り、興奮で体積を増した下腹を押し付ける。士季のそれもすっかり屹立しているようで、制服のズボンを持ち上げ主張していた。嫌だと断られないよう吐息を耳に浴びせ懇願の言葉を投げ掛ける。「キスだけ、って……」涙声に恨み言を呟く士季はそれでも抗いきれずベルトへ手を伸ばす。力の入らない手がもたつきながらもそれを外し、ファスナーを下ろした。黒いボクサーパンツが現れて、持ち上がった布の先端付近が僅かに湿っている。俺と同じく彼も興奮しているということが純粋に嬉しかった。
 下着をずらし顔を覗かせた性器を手で握り込み上下に擦る。士季の喉から、甘えたような声が溢れる。開きっぱなしの唇の端から流れる唾液を舐めて口腔へ再び舌を差し込む。彼の舌が、焼けそうな熱量を持って俺を迎えてくれる。
 舌同士を絡め、吸い、しゃぶっていると、彼の手が俺のベルトに触れた。片手を繋いでいるため不器用な動きでそれを外そうとしているようだが、力のない手では難しいようだ。膝の位置をずらして体を支え、空いた手で手伝うようにベルトを押さえるとようやく外すことに成功したようで、士季の手は性急な動きで俺の性器を取り出した。自分で言うのは何だが、相当興奮しているため、それは既に臨戦態勢だ。手の平に包まれると心地良さに喉が引きつる。

 そこからはもう、することは単純だった。互いの性器を握り、擦り合い、唾液を貪り、快楽を啜る。流れ込んだ俺の唾液を嚥下する音すら脳が揺すられるような快感をもたらした。口の中で士季が唸り手の中の熱が何度も震え痙攣する。吐き出された体液を手の平に感じながら、俺も似たようなタイミングで彼の手と腹に精液を飛ばしていた。獣のような荒い呼吸を整えながら唇を離せばどろりと唾液が垂れて士季の顔を汚す。半ば体重を掛けるように重ねていた上体を持ち上げて繋いでいた手を外すと、茫然としていた士季が両手を持ち上げて「いっぱい出したなぁ」と笑み交じりに感想を述べた。

「……すまない、これで拭いてくれ」

 傍に積んである、油を拭くためのウエスを彼に手渡すと、士季は大人しくそれを受け取り、手と、下腹部に伸びた液体を雑に拭った。俺も俺で精液を拭き取ってから服を直してジャケットに腕を通す。Dホイールのエンジンを掛けて、隅に置かれた士季の鞄を積んだ。7時まであと10分。問題なくバイトには間に合うだろう。

「……遊星ってホント、ちゃっかりしてるよな」

 赤い顔を腕で擦る士季がワイシャツをしまいながらそう呟いた。「まあな」一言そう言葉を返してヘルメットを投げれば彼はそれをキャッチして、足早に俺の元へ走り寄ると、Dホイールの後ろへ飛び乗るのだった。

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160516