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TF(小波)
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 万丈目はああ見えて実は結構真面目だ。授業は基本さぼらないし、前に彼と十代の部屋に泊まったときには予習復習もしていた。結局十代に邪魔されてはかどらないことも多いようだが、それでも万丈目の頭は努力によって支えられているのだと感心してしまった。
 そういう俺はと言うと、予習復習どころか宿題すら当日にやるタイプなので、筆記試験はさっぱりである。一応実技はフルバーンやホルスを用いたロック系のデッキを構成して臨むためそちらで何とか首の皮一枚繋がるって感じだが、こう……まるで十代と変わらない辺り、悲しい。

「何故こんな簡単な問題が解けないんだ貴様は」

 イライラした声の万丈目がため息をついた。数学なんてさっぱり分からない俺はさっきから似たり寄ったりな問題で躓いては、家庭教師万丈目サンダー先生に、バカだスカスカ脳だ学習能力皆無のタコ以下の人間だと、それこそ頭のてっぺんから爪先までを罵られている。

「だってぇ……」

「だってじゃない! 足りない頭を回転させろ!」

 怒鳴られるままにまた目をノートに落としたが、分からないものは分からない。諦めてサンダー先生に視線を投げると万丈目は再びため息を吐いて、ぐっと体をこちらへ寄せた。

「全く貴様と十代には呆れたものだ。いいかよく聞け、この問題には、」

 あの公式を使ってどうしてこうして云々かんぬん。まるで呪文だ、さっぱり分からん。
 一通り説明を受けたのに理解出来なかった俺は見事に頭をひっぱたかれて、今は床に抱き付いている。背中の上には万丈目が座っていて、またバカだとかミジンコ以下だとか罵っていた。

「サンダー先生」

「何だ小波」

「重いです」

「公式を覚えるまで退かん」

 鬼だ……と呟くと今度は冗談抜きで殴る蹴る踏むというバイオレンスな教育指導に出る恐れがあるため、俺は大人しく万丈目がつらつら上げる公式を繰り返す。数学の公式を述べながら背中に乗る万丈目ははたから見てもさぞ違和感があるだろうが、残念なことにこいつは顔が綺麗なので画にならないという心配はないだろう。

 それから10分ほどが経って、ようやく万丈目が口を閉じた。薄い唇が引き結ばれるのと同時に切れ長の目が俺を見下ろしてきて、万丈目の座る場所が場所だけに何となく気まずくなる。
 しかし俺は悪くない、悪いのは背中に座る万丈目であって、俺は悪くないのだ。悲しいことに頭は悪いが、それは気付かないフリをしてほしい。

「どうだ、覚えたか」

「……多分」

 そう答えると万丈目は満足気に笑って俺の上から退いた。起き上がると背中が恐ろしく痛む。だがサンダー先生はまるでお構いなしにノートを俺に突き付ける。ノートにはびっしりと、今まで散々繰り返した公式を使う問題が並んでいた。きっとこの先それを見るだけで泣きそうになることだろう。

「いいか小波、間違えたらキスだ」

「……え、は?」

「全問正解したら抱いてやる」

「おまっ、や、ちょ、」

 いやいやいやと突っ込む間もなくかっと顔が熱くなるのが分かった。何を言ってるんだこいつは素面で抱くとかそんな、あ、ハグか? ハグなのか? ハグにしろハグじゃないにしろ万丈目には損はない。むしろ万丈目がしたいとかそういうことな気すらする。
 ノートにかじりつきながら窺った万丈目の顔は得意気だ。腕を組み足を組み顎と口角を持ち上げて、全身で「俺様に感謝しろ」と告げている。俺はここまで高慢な人間は見たことがなかったが、万丈目は不思議とそれが似合っていた。金持ちって凄い。

「なぁ万丈目」

「……なんだ」

 あ、さんだって言わなかった。数式の魔術に操られた俺は万丈目の紫色のシャツの裾を握り軽く引く。別に甘えたいとかそんなんじゃない。俺は今勉強のしすぎで疲れていてサンダー先生のスパルタ教育から少しでも逃げたいがためにこんなことをしているわけでつまり、甘えたいわけじゃないんだ。

「……間違えないと、キスしてくれないのか?」

 この時の万丈目の驚愕した顔を、俺はきっと忘れないだろう。唇に触れた熱に消えてしまいたいほどの羞恥を感じながら俺は、微かな優越感に浸るのだった。

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