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大蛇丸様と
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 あの子には名前がない。十を数える前に呪われた体は以来成長せず、徐々に細胞が死に、おぞましさ故に親にも見捨てられ、まるで腐りかけの躯が如く墓場に転がっていたと大蛇丸様は話していた。それもあって彼の大蛇丸様へ対する忠誠には目を瞠るものがあったが、しかしただそれだけだ。頭が切れるわけでも血継限界があるわけでも、ましてや訓練を積んだ忍びというわけでもない。禍々しい呪印を大蛇丸様の封術で蛇と変え、その身に押し留めているだけのただの子供だ。

「大蛇丸様。あの子は置いていかれるのですか?」

 研究所に向けて発つ日の朝、僕は大蛇丸様に問うた。昇り切る前の朝日が岩盤を照らして反射光が目を刺す。

「彼は僕一人では手に負えませんよ。貴方のいない一週間、大人しくしていてくれるかすら怪しい」

 大蛇丸様に贔屓目にされているサスケくんや僕を、彼は異常に敵視している。近寄るだけで犬歯を剥き出しに威嚇して、触れようとすればそれこそ比喩でなく噛み付かれる。アレが相手ならば野良犬の方が可愛くすら見えた。
 襟首を整えた大蛇丸様は僕を振り返り僅かばかり一瞥する。

「昨日しっかり言い聞かせておいたから大丈夫よ……多分ね。仕置きをくれてやってもいいけど、程々にしてあげて頂戴」

 じゃあ、とも言わずに大蛇丸様は姿を消した。大蛇丸様が一昼夜言い聞かせたくらいでアレが僕の言うことを聞くとは到底思えなかった。恐らく今日の夜には僕の発言など一つたりとも聞き入れなくなるだろう。
 それに大蛇丸様は仕置きを許可すると言いはするが、いざ僕が彼に無体を働けば、例え彼に非があろうとも、決まって僕を責めた。泣き喚くあの子の頭を撫で、目の前で僕をなじって見せることでソレは大蛇丸様の「特別」なのだと知らしめる。自分の所有物に触れられるのを嫌うのであれば常に身の側に置き面倒を見てほしいものだと、僕はそれを見る度に切実に思ったものである。

「やれやれ、参ったな……」

 今はまだ眠りの中にいる彼も、あと数時間もしないうちに目を覚ますはずだ。そうなれば無能故に置いていかれたと彼は嘆きに嘆くだろうし、サスケくんも出払っている今、それを慰めてやるのは僕の役目になってしまう。
 彼を本心から気に入っていると、大蛇丸様自身の口から告げて頂くのが最も効率的なはずなのに、あの方はそうしなかった。故に、僕は今しばらくあの子を慰める貧乏くじを引き続けなければならないのである。

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130205