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転生
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「春日の部屋っていい匂いがするね」

 何を言ってるんだと心の中で突っ込んだが、僕はありがとう、なんてしどろもどろに答えた。サイが僕の部屋に来たいと言ったのはつい一時間ほど前で、あまり人を呼ばない僕は母親に詮索されるのを恐れてイヤだダメだと粘ったのだが、グイグイ押し切るサイに勝てるはずもなく、僕は自室の城門を開けるハメとなった。
 前回カフェで会ったときにストレートすぎる告白を受け正直どんな顔をしていいのか分からなかったのだが、マイペースな彼はどこ吹く風である。ゴリ押しに弱い僕だ、ひょっとしたら禁断の愛的な間違いを犯してしまうのでは……などと心配していた自分が心底バカらしい。

 室内を見回し依然臭いを嗅ぐサイの肩をつついて、まず座ってほしいとイスを示す。僕は自分のベッドに腰を降ろして、しかしサイは何を思ったか、指し示されたイスではなく僕の隣へと座った。膝頭が彼に当たって、驚きに尻を横へずらそうとした瞬間、ベッドの上に置いていた手に彼の手が重ねられる。ヒヤリと冷たい手が僕の手を握った。何だこれ何だこれ何だこれ。
 デジャヴ感の拭いきれないままパニックに陥る僕の目を彼がじっと覗き込んだ。

「予想はしてた?」

 彼の言葉に僕は懸命に大きく何度も頷く。予想はしてた、だがありえないと結論付けたのに。

「毎回思うけど、キミって警戒心が強いわりに無防備だよね。しようと思えば簡単に出来る」

「するって、なにを……うわっ、!?」

 握られた手を、それはもう思いっきり引かれた。腕が抜けるかと思うような衝撃が肩と肘を襲って、バランスを崩した僕の肩をサイが殴る。正確には殴ったのではなく押さえてベッドに押し倒したようだったが、しかし僕の体感では殴られたも同然だった。一瞬で視界が天井に変わる。腕と肩を掴まれたまま腹に乗られた僕は動くことも出来ず呆然と彼を見上げた。自分が今どのような状況にあるのかすら理解出来ない。何だこれ、とまた頭の中で繰り返す。

「レイプを、だよ」

 ……レイプ?
 レイプとは、金融企業の名前だったなどというオチではなく、強姦という意味だろうか? しかし男である僕に、男であるサイが、強姦を働く利益などどこにある?
 レイプ、という単語の意味をはかりかねている僕の胸に無表情のサイが手を乗せる。心拍数が上がっているのが自分でもよく分かるくらいだ、彼はすぐそれに気付いただろう。浮かんでは消える疑問が解消するよりも早く手が離れ、サイが僕の上から降りた。

「ものの例えだからしないけど。でも気を付けた方がいいよ。最近は物騒だから、男も危ない。特に、」

 ベッドからイスへ移動したサイが一拍置くように言葉を切る。怯んで力の入らない僕の体を両腕を突っ張ることで何とか起こすと、彼と目が合った。生白い肌のせいで余計に目立つ暗い色の瞳が、僕の目を真っ直ぐに見据えている。

「品がよくて、見るからに弱そうな、春日なんかはね」

 随分な言われようだった。

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130116