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社会人と喜多くん
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 親を伴わず、サッカーの合宿以外で外泊するのは初めてだった。それも多少会話を交わし幾度か面識があるとはいえ、ほとんど初対面の人間の家に泊まるなど以ての外だ。その手のことにうるさい家ではなかったが、やはりこの男が両親に挨拶を済ませてしまっているという点も大きいかもしれない。
 人当たりのいい優しそうな好青年風の男は天河原中OB、監督代理なんて適当な肩書きで紹介してしまったが、存外両親はそれを疑いもせず俺を自由にさせているのだから、はたして顔の作りがいいというのは得である。

 雅人さんは何でも出来る人のようで、泊まりに来た俺のために手料理を振舞ってくれた。部活終わりで疲れた俺の体力がつくよう、肉と野菜の栄養がありそうな品がテーブルに並ぶ。無趣味を謳う彼が映画観賞と並び唯一時間を割くというだけあって、料理の腕はとてもいいみたいだ。遠慮はいらないという言葉を鵜呑みにした俺はご飯をおかわりして、雅人さんはにこにこしながら俺に食事を勧めた。
 雅人さんに言われた通り、夕食の前に風呂に入っておいてよかったと思う。満腹になるまで食べたせいで腹はパンパンで、正直動きたくなかった。この幸福感の中で風呂に入るなんて億劫で仕方ない。

 二人でソファに座りながら何となく流した映画を見て、俺は色々なことを考える。一緒に映画を見ようと誘われ承諾し、今ここにいるのだが、やはり下心というか、そういうことをする気があるのだろうか。俺も雅人さんも風呂に入って、手を繋いで映画を見てる。口数は少ないものの雰囲気がないわけではないはず。しかし今まで雅人さんとは何度かキスをしたけど、それだけだ。服に手がかかることもなかったし、処理を手伝えと言われたこともない。一目惚れだなんて甘い言葉を囁くが、彼は一回りも年の違う俺の、一体どこが気に入ったのだろう。ビールを飲みながらテレビを見つめる雅人さんを横目に見上げるが、彼は真剣に画面に見入ってるみたいだった。

 考えるうちにちょっとだけ眠くなってきて目を擦ったら、それに気付いた雅人さんが俺の顔を覗き込んできた。女っぽくはないが、整った、綺麗な顔だと思う。

「寝るかい?」

 頷くと、映画を停止して手を引かれる。リビングの隣にある寝室に通されて、どうぞと枕を渡された。俺の横に雅人さんも横になって、電気が消える。いつも学校帰りに寄るカフェでする話は他愛ないことばかりだが、雅人さんと話をするのは楽しかった。共通の話題なんてないのに雅人さんはいつでも俺の話を聞いてくれたし、たまに面白おかしく失敗談を聞かせてくれる。
 優しい手が俺の頭を撫でて、それが凄く気持ちよくて、知らず知らずうとうとしていたんだと思う。

 気付いたのは、くすぐったかったからだ。雅人さんの指が俺の耳を触っていて、意識が呼び戻される。何をされてるかよく分からなかったが、しばらくすると雅人さんが俺に顔を寄せて、身構える暇もなくキスされた。柔らかい唇が押し当てられて、それから離れてもう一度。それがいつもと同じじゃないと察したのは、雅人さんが俺の唇を舐めたから。
 舌が、俺の唇を舐める。そんなの初めてで目を見開いて固まっていたら、彼は笑いながら「舌を出して」と囁いた。慌てて言われた通りにすると、出した舌がちゅっと吸われる。腰の奥がぞくっとする。

 こんなキスをするのは初めてだった。舌を舐められて、吸われて、その度にぞくぞくする。ビールの苦い味がしたけど俺はそんなこと気にしていられるはずもなく、出した舌を少しずつ動かすだけで精一杯だ。こんなのは知らない。ぬるぬる擦り合わされる舌が気持ちいいなんて。唇を覆われて、息も唾液も奪われる。ぴちゃぴちゃちゅくちゅく、いやらしい音が部屋に響いて恥ずかしいのに、やめてほしくない。頭の芯がじんわり痺れるような、鈍い感覚が指の先まで広がっていく。

「はふっ……はぁ……はあ……」

 ようやく唇が離れて胸一杯に酸素を吸い込むと雅人さんが困ったような顔で微笑む。エッチな表情をしてるよ、なんて言うけど、自分のそんな表情なんて見当もつかない。何て返そうか考えていたが、それは股間を撫でられて答えが出ずに終わる。硬く、なってる。いくら体験したことのないキスで気持ちよかったからとはいえ、キスだけでこんなになるなんて。雅人さんは「若い証拠だよ」なんて笑いながらそこを手の平で包むようにさする。

 オナニーをしたことがないなんて言うつもりはないけど、それでも俺は回数の少ない方だと思う。普段からおしっこをする以外に触れる機会の少ないそこが誰かの手で触れられている。やんわり揉み込まれ、息が詰まると袋をそっと転がされる。きもちいい。

「お尻も慣らしていこうね」

 ふとそんな言葉がかけられて、雅人さんがどこかに手を伸ばすのが分かった。カポッと音が鳴って、それからまたクチクチと粘着質な音が鳴る。ローション、だろうか。男同士は尻に入れるという話は聞いたことがあったが、まさか自分がそれを体験することになるなんて。
 ズボンとパンツをずらされて、雅人さんの手が尻の割れ目に伸びる。本気でやるつもりなのかと不安のこもった目で彼を見ると、彼はまた俺の唇を吸った。

「すぐ入れるようなことはしないよ。まずは喜多くんが気持ちよくなれるように、ね」

 指が、押し込まれる。少しひんやりするがローションのおかげで痛みはないし、異物感も少ない。気持ちよくはないけど悪くもない。不思議な感じだ。そのうちに空いた手が俺の乳首を弾いた。

「こっちは自分で出来るかな?」

 優しい口調に釣られて俺の手が自分のちんこを握る。乳首とちんこと尻の穴を同時に弄られて、背中がじっとりと汗ばむのが分かった。気持ちいい。尻の奥は気持ちいいというより、熱い。ちんこをしごく手に合わせて尻を指が突き上げる。ほんの少しだけだけど、指が引き抜かれる瞬間に浅い場所を擦られるのが気持ちいい、ような気がした。

 舌をしゃぶられ乳首を捏ねられ尻を擦られ、ちんこをしごく手に力がこもる。目の前がチカチカして、呼吸が荒くなるのに唇を解放してもらえない。一心不乱にその感覚を追って、そのうちにぎゅうっと腹筋が収縮して、俺は動きを止めた。雅人さんの手も動きを止める。

「あっ、んっ、んんっ……」

 腰の奥にわだかまっていた熱が一気に噴き出すような感覚に息が止まる。イく瞬間が、俺は苦手だ。

 言葉もなく、息も吐けず、体中の筋肉が張った。どこか高いところに押し上げられるような強烈な感覚に目の前が白くなる。あつい。いきができない。くるしい。きもちいい。頭の中に同じ単語がぐるぐる回り、雅人さんの背中に回した手がキツくシャツを握り込む。腰に集まったきもちいいのが、じりじり焦らすようにゆっくりとちんこから押し出される。くるしい。きもちよくて、しにそう。

 ほんの数秒の出来事が、そのときの俺には何十分にも感じた。自分の荒い呼吸と心臓の音が戻ってきて、白かった画面に色が戻る。雅人さんの優しい目が俺を見つめていて、ようやく体から力が抜けた。手にはべっとりとザーメンがついていたが、それを拭う気力すらない。

「大丈夫かい?」

 心底案じているような声で雅人さんは言って、俺はかろうじて頷く。大丈夫に見えないかもしれない。

 イくのが、苦手。俺がオナニーをあまりしない理由はここにある。もちろん気持ちいいが、気持ちよすぎてそれ以上手を動かすことが出来なくなる。射精の瞬間に手が止まって、そのせいで勢いのない射精が延々続いてしまう。

 ふうふうと荒い息を整えていると雅人さんはキスをしてきた。普段はヘアバンドで上げている前髪が汗で張り付き気持ち悪くて腕で汗を拭う。力の抜けた俺を見下ろす雅人さんは、どこか満足そうな顔だ。
 てっきり自分の処理も手伝えと言われるかと思っていたのだが、予想に反して彼はそんなことは言わなかった。ベッドから降りトイレへ向かう彼の股間は、ここから見て分かるほど膨らんでる。俺で興奮したのか、なんて他人事に思いながらも、手伝ってあげるなんて言う勇気はなく、俺は黙って彼の背中を見送った。

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120416