妖怪と妖怪
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結婚を前提に交際しているという旨を伝えるため双方の両親に挨拶して以来、楊貴のべったりは更に度を増した。端から見れば今までも相当べったりだったが、今はそれとはまた違う状況だ。積極的に自分から触れてくるようになったし、恋人という肩書きを使うようにもなったし、そして何より以前より幸せそうである。
近くテスト期間となるため彼女を部屋に呼び共に自習としている今、楊貴は無言のままノートに目を落としている。人間としての真面目な行動もきちんと学習しているらしい。
「楊貴、キスをしよう」
何の前触れなくそう切り出すと、彼女は理解出来ぬまま顔を上げて、オレの口元を見たあと赤面した。
「キ、キス……ですか?」
「うん。イヤ?」
彼女はぶんぶんと大きく頭を振った。求愛行動を、彼女が嫌がるはずもない。
オレは持っていたシャーペンを置いて、正面に座る少女の頬に手をかけた。折りたたみ収納することの出来る簡素な机に手を置いて身を乗り出し顔を近付ける。期待に揺れる金色の目が瞑られる。
「あ……」
触れて、離れるだけのキスをした。彼女の唇は柔らかく、リップクリームを塗っているのかしっとりとしていて心地よかった。「蔵馬様……」唇の合間からちらりと舌を蠢かせる彼女の瞳は、深みへ誘うようにこちらを見据えている。妖力の低い妖怪であれば容易に陥落してしまいそうだ。
「今日はここまで」
耳元でそう囁くと、彼女は哀しげに眉を寄せた。キスのあとは当然その後に及ぶものと、彼女はそう思っている性質なので物足りないのだろう。
ところが体を離そうとした瞬間、突然少女の細い腕がオレの首に巻き付いた。頬がすり寄せられ、その手が首から背中、そして脇腹へ下がる。少女の含み笑いがオレの鼓膜を震わせた。
「蔵馬様……貴方様をお慰めするお許しを、どうか私にくださいませ……」
生温かい舌が耳朶をねぶる。悪戯に悪戯を返す彼女に少し笑って、オレは頷いた。
「ああ。楽しませてもらおうか」
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130102