妖怪と妖怪
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「蔵馬様! あの、これ、お口に合うか分かりませんが……もしよろしければ、お食べになってください!」
登校途中、いつもの通学路を辿るオレは楊貴と遭遇した。常ならば交差点の向かい側で手を振るだけなのだが、今朝は何故だか彼女はオレの通る横断歩道の手前で待っていたようだ。差し出された可愛らしいピンク色の包みに目を落としそれを受け取る。
「あ。もしかして、お弁当?」
「はい! 昨日、お母様とお父様がお出掛けになられたとお聞きしたので、もしかして昼食は既製品なのではと思って……あ、あの、ご迷惑でしたか……?」
「ううん。ありがとう、助かるよ。購買のパンじゃ味気ないから。でも何だか悪いな……貰ってもいいの?」
「〜〜〜〜っ! も、もちろんです!!」
目に涙を浮かべ、顔を赤らめながら彼女は嬉しそうに微笑んで見せた。品行方正を掲げる女子校の制服と相俟って、決して地味とは言えない華やかな外見の彼女はただ立っているだけで目を引くが、こうして蕩けそうな笑顔を浮かべていると更にそれへ拍車が掛かる。盟王の制服を着た男子生徒を始め通り過ぎる男たちの大多数が彼女に見惚れているのが分かった。異性を惹きつける彼女の妖怪としての能力は、未だ顕在ということだ。
若干面白くないオレは通りを歩く人間になるべく彼女の姿が見えないよう立ち位置をずらした。自分でもはじめて気付いたが、オレは案外嫉妬深いのかもしれない。
「じゃあ、また。後でメールするから」
彼女の頬に手を伸ばし白い肌を指先で撫でる。柔らかい髪をすくって頭を撫でてやると「はぁい……くらまさまぁ……♥」彼女は舌足らずな口調で答え、熱に浮かされたような、幸福感に満ちた顔でフラフラと自分の通学路へ戻っていった。信号の向こうで楊貴を待っていた友人と思わしき女子生徒が彼女の鞄を手渡して、それからオレに向かって会釈した。
鞄を持ち、大きく手を振った少女に手を振り返してオレも通学路へと戻る。
「さて……何てメールを入れようか」
無難に感謝を綴るべきか、今朝も可愛いと褒めるべきか。どうすれば彼女が殊更喜んでくれるか考えるこの時間を、オレは存外気に入っていた。
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121217