妖怪と妖怪
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妖怪退治のため集まったオレたち四人は、土曜の夕方頃、郊外にある廃墟前に集まっていた。人間界で悪行を働く妖怪を再び狩り出して久しいが、オレにとって近頃はそれどころではない。それを知っている桑原くんは、好奇心を隠そうともせずオレの横に並んで階段を昇っていた。
「蔵馬よぉ、あれからあの子とはどうなんだ? 会ってんのか?」
「ああ、まあ……」
会っているどころの話ではない。
先日再会を果たした昔馴染みの少女とは別れ際に携帯の番号とアドレスを交換したのだが、それ以来毎日、否、毎時間のようにメールが来ていた。文末に返事は必要ないという一文があるものの、マメなことだと感心する。
人間としての彼女はそれなりに裕福な家柄を選んだようで、オレを追い、盟王学園の姉妹校に当たる女子校に在籍しているらしい。毎朝メールが届き、通学路でも遭遇する。遭遇といっても交差点の向こうで手を振る程度の微々たる接触なのだが、彼女はたったそのためだけに家を早く出て、オレが来るまで待っているようだった。健気と言えば健気である。
「っつーかあいつ、蔵馬の子供産むって言ってたが、ありゃどういうことだ? 妖怪ってそーいうアレなのか?」
オレたちより少し先を歩く幽助が言う。
確かに生物として子孫繁栄させるのは当然の流れであるが、彼女はそれとはまた違うのだ。異種族の雄と交配し、自らの血を食い込ませ生き延びる。個体数の少なさ故に編み出された苦肉の策ではあるが、それでも一人の男のみに従い体と心を明け渡す性質を、彼女たちは愛と称するのである。
オレに助けられたことで感じた愛欲が、イコール妊娠、出産に結び付いてしまうのだろう。妖怪全てがそのような思考形態をしているわけではないと説明すると、幽助は興味なさそうに「ふーん」と相槌を打った。
「人間からすれば確かに彼女は突拍子もないけれど、楊貴はああ見えて、可愛いところもあるんですよ」
そう切り出したところで、オレの携帯がポケットの中で震えた。マナーモードにしてはいるが、恐らく彼女からのメールだろう。
「オレに対してあれだけ露骨に好意をアピールしてはいますが、自分が愛されていると気付かない。うっかりさんなんです、彼女」
「そりゃオメェ、うっかりっつーか……」
「さっさと教えてやらんキサマの性格が問題だろう」
「おや飛影、言いますね」
後ろを歩く飛影に笑いかけると彼はフイと顔を逸らした。
好きだ、愛してると豪語する彼女だが、愛してほしいなどと言ったことは一度たりともない。それどころか道具のように扱われようとも構わないから側に置かせてほしいと懇願する彼女の姿を見て、何も思わないほどオレは非情ではなかった。
オレの身を案じる内容であろう彼女からのメールにほくそ笑み、階上から響く笑い声に意識を集中させる。オレの前では臨戦体制を取る幽助と桑原くんが、目配せをしてドアに手を掛けた。
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121217