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妖怪と妖怪
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「蔵馬様、またお会いしましょう。私は必ずや貴方様のお側に駆け付けます」



 ーー何があっても、と。




 オレが霊界のハンターに追われるようにして人間界に降ったとき、その手助けをした妖怪がいた。彼女は刃に裂かれ、傷だらけで血を流しながら健気にもそう言って見せた。古い、遠い昔の記憶だが、忘れたことはない記憶の一つである。



 平日の放課後、霊界から妖怪退治の依頼を受けたオレ、幽助、桑原くん、飛影の四人で並んで歩いているとき、何気なくふとそんなことを思い出した。そして物思いに耽るオレは恐らく話を聞いていなかったのだろう。

「オイ蔵馬、聞いてんのか〜!?」

 幽助に顔を覗かれハッとして「悪い、聞いていなかった」取り繕うように答えると彼は呆れたような顔で眉を顰める。難しい顔して考えごとかぁ? という桑原くんの文句にオレはもう一度すまないと返す。幽助が、オレの右方向を指差した。

「さっきからメチャクチャ見てるけどよ、蔵馬の知り合いかよ?」

 全員の目が幽助の指の先に向いていて、オレもそれに倣って視線を向ける。右にはゲームセンターがあり、店舗前に設置されたクレームゲームが夕陽を反射している。その機械の前に、少女が立っていた。オレは思わず息を飲む。

 目鼻立ちの整った綺麗な顔である。栗色の髪と白い肌に、赤い血のような色をした唇がやたらと印象的な面立ちだったが、オレが呼吸を忘れたのは、その顔に見覚えがあるからだった。

「くらま、さま……?」

 鈴を転がすような澄んだ声がオレの、妖怪としての名を呟く。三人の目がオレを見た。

「くらまさま……蔵馬様! 間違いようもありません、この妖力……! ああ、ずっとこの日を待ち焦がれておりました……!」

 駆け寄ってきた少女がオレの手を掴む。この年頃の少女にしては強い握力でオレの手の骨がやや軋んだが、オレは振り払うことも忘れてじっとその顔を見つめていた。少女の金色の瞳には涙が浮かんでいて、それを見た幽助と桑原くんが状況を理解出来ないという顔でオレを見つめている。

「オイオイ蔵馬、一体何者なんだよこの女……」

「蔵馬様、お忘れですか? 貴方様に命を救われた楊貴でございます。蔵馬様と再び相見えるため、同じく人の世に降って参りました」

「ああ……覚えている。というより、忘れたことがない。お前のお陰で、オレはこちらに来れたのだから」

「あ、ああ、そんな……蔵馬様のお口からそのようなお言葉を頂けるなんて……み、身に余る光栄です……っ」

 少女は口元を両手で押さえ、ぼろぼろと涙を零す。オレ自身もそうだと自覚してはいたがこの見目麗しい少女もまた目立ちすぎるため、流石に往来の真ん中で泣かれると人の目が集まりすぎてしまって、オレは咄嗟に彼女の手を引いて路地へ入った。幽助たちもそれに続いて後を追ってくる。

「う、うぅ、ふぅ……お、お会いしとおございまひたぁ……!」

 顔を涙でぐしゃぐしゃに濡らした少女がオレの体に縋り付く。呆然という言葉のよく似合う顔で黙り込む友人にこの事態を説明するため、オレは抱き付いている少女の頭を撫でて、過去の経緯を話しはじめた。





「っていうと、じゃあつまり、そいつは命の恩人である蔵馬を逃がすために犠牲になって、そっから追い掛けて来たってことか?」

 要略すればそんなところだと頷く。腕の中の少女は話の途中で泣き止んだようだが未だにオレの制服を掴んで離さないため抱き合ったままだ。桑原くんが感動したのか涙を飲んで何度も頷いている。

「いい話じゃねぇか……愛の力ってやつだなぁ……」

「フン、くだらん。追ってどうする。礼でも欲しいのか?」

「オイコラ飛影テメェ、そんな言い方はねぇだろうが。愛した男のため自分を犠牲にした彼女が追って来てくれてんだ、優しい言葉の一つでも掛けてやるのが男ってもんだろうがよォ」

「知るか。足手まといになるような奴はいらん」

「なんだとコラァ!?」

「オメェらなぁ、そうカッカすんなよな」

 いつも通りの口論が始まり幽助がやる気のない仲裁に入った。それを見ていた少女がキュッと唇を引き結んで飛影を見て、それからオレの顔を見上げた。

「ご友人の方々にはご迷惑をお掛けしません。私は蔵馬様に助けられたこの命、蔵馬様のために使いたいのです。蔵馬様の御子を宿し、蔵馬様のために死ぬ……添い遂げることが出来なくとも構いません。ほんの僅かでもお隣に置いてください!」

 オレは額を押さえて言葉を失った。彼女も人間の母胎内で赤子と融合して人間として生活してきたようだが、それでも中身は相変わらず妖怪のままである。御子を宿す、という柔和な表現を取ってしても幽助と桑原くんはその真意に気付いたようで、目を見開いて凝視していた。

 要するに彼女は、オレの子供を産むために、この人間界に来たのであった。

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121217