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妖怪と人間
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 南野秀一、という青年が俺の恋人だった。俺も彼もゲイではなくいわゆるノンケであったのだが、長年生きると予期せぬ事態に遭遇することも少なくない。彼とそのような間柄になったのも、つまりそういうことであった。

「幸孝、紅茶飲む?」

 初対面のときには幸孝さんと呼んでいた彼だったが、俺はそういう堅苦しいことが苦手なので呼び捨てにするように言い、以来彼はそれに従っている。随分育ちのいい青年のため礼儀作法には気を配っているのかもしれない。自分一人のときには絶対に飲まないような、何とかティーという紅茶を淹れにいった彼の後ろ姿を見送って、俺は勉強机に付属されたイスに腰を落とした。

 勉強机の棚にはいくつもの本、それも学習用の教材が整然と並んでいる。秀一くんはしっかり者のため、体を壊しやすい彼の母に楽をさせるためにも、よい進学先、就職先を目指しているのだろう。
 かたや俺は医師の卵と言えば聞こえはいいが、名も聞かないような廃れた専門学校で医療関連の講義を修めつつ、その片手間にモデルの真似事をしているのだから全く笑えない。とはいえこのささやかなバイトのお陰で秀一くんの目に留まったのだから、この顔に産んでくれた両親と、モデルの仕事をくれる親族と友人に甚く感謝だ。

 紅茶を持って戻ってきた秀一くんが、興味深そうに勉強机を眺めていた俺に「どうかした?」と声を掛けた。何をしても様になる、まさに色男。紅茶の乗ったトレイ片手にドアを閉める姿がこれほど絵になる男というのを、俺は彼以外には知らない。

「ああいや、相変わらず真面目だなーと思ってさ」

 若干の語弊があるような言い回しになってしまったのは自覚があったが、やはり彼は素直にそれを受け取ったようだ。俺の側に寄り、勉強机の上にトレイを置いた。

「別に真面目ではないさ。息抜きだってしてるし、好きなことをしてるだけ」

「うん、だから余計に。勉強を好きって言い切れて、真っ直ぐ向かう姿勢がカッコいいな……って言いたかったんだよ」

「ああ、そういうことか」

 口下手な俺の言わんとしたことが伝わり彼が頷く。渡された紅茶を受け取ると、秀一くんは机とは反対側にあるベッドの上に座った。
 こうして俺と彼は週に二度ほど二人きりで会話を交わす。他愛ない話や勉強の話、秀一くんと特別仲のいい友人たちの話など、いつも話題は尽きない。

 だがしかし、彼は俺といて楽しいのかと不安に感ずることも少なくはなかった。友人に恵まれ容姿にも才能にも恵まれ、更には努力を惜しまない。そんな誰から見ても完璧超人の秀一くんが、例え顔が気に入ったからという理由があろうとも、俺のような取り柄らしい取り柄のない人間といて、本当に楽しいのだろうか、と。
 人の良さそうな顔で微笑む恋人を見ながらそんなことを思ってはみたものの、そういう俺はといえば四六時中彼のことを考えてしまうほど秀一くんに惹かれていて、要するに俺は彼を好きで、愛していたのだった。


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