×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


次男に愛される話
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ねえカラ松くん。カラ松くんって六人兄弟だったよね? 今度会ってみたいなーなんて」

 そう言われ、現実を現実として理解出来ないオレは何度も瞬きを繰り返したが、眼前に佇むオレだけのミューズは依然として微笑みを湛えたまま返事を待っているようだった。公園で清く正しい交際を続けているオレたちに色めき立つようなイベントはなく互いの近況を報告したり、たまに彼女が飼っている犬の話などを聞いて楽しく穏やかな時間を過ごしていたというのに、まさか兄弟の話が出るとは思ってもみなかった。ジーザス。それだけは絶対にダメだ。何としても避けなければならない出来事の一つだ。何故なら君が思う以上にオレの兄弟、特にクソ長男はクズ中のクズなので確実に君を穢し悪影響を与えるだろう。あいつは女と見れば見境がなく触っていいもんだと思っている。長男だけでなく三番目や四番目もかなり危ない。五番目などはむしろ心配すらされそうだし、六番目に至ってはオレの恋路の邪魔をする可能性すらある。そんな危険地帯出身みたいなオレの兄弟に、天上の楽園で薔薇とエンジェルに囲まれて育ったような美しくピュアな彼女を引き合わせるにはいかない。絶対にだ。何と答えるか迷い言葉を選びながらオレは腕を組んだ。

「あ、あー……それはダメだ。その、言いにくいんだが……ここだけの話、長男が少し、アレなんだ」

「……アレ?」

 あまりこう言ったことは言いたくなかったがケダモノから女神を護るにはこれしかない。額に手を当てため息を吐くオレを見つめるレディは心配そうだ。もしかして楽園にはアレな人間がいないから分からないのかもしれない。すまないガール、決して家族に引き合わせたくないわけではないんだ。むしろダディやマミーになら紹介したいくらいだが、兄弟は話が別だからな。長男はアレだし四人の弟も童貞とニートを拗らせて酷いことになっている。六人の中で唯一マトモなのはオレだけで、そんなオレを見ているからこそ他の兄弟も大丈夫だと勘違いをしているのだ、彼女は。わざとらしく咳払いをすればオレのミューズは口元に手を当て衝撃を受けたような素振りをした。

「それって……」

「ああ。何をしでかすか分からない男なんだ。目を離した隙に……いや、目を離さなくとも君に襲いかかるかもしれないからな。すまないマイリルエンジェル……いつか必ず、紹介出来るときがきたら紹介するぜ……」

「そっか……」

 少し残念そうな心に罪悪感が刺激されるが何をしでかすか分からないというのはまさしくそうなのであながち嘘ではない。六人兄弟というだけでも珍しいのに、更に一卵性の六つ子ともなれば好奇心が刺激されるのも当然だろうが、世の中には知らない方が幸せなこともあるんだぜ、レディ。オレは彼女の手を取った。白く華奢な手は薄く、指は細長い。冬の日の小枝のようなそれは力を込めればポキリと音を立てて折れてしまいそうな脆さで恐ろしかったが、その手はすぐにオレの手を握り返してくれた。弱い力で小さな手がオレの手を握る。そのぬるい体温にすら心臓がドキリと跳ねた。

「……うん、分かった。胸を張ってカラ松くんの彼女だって言えるようになってから、もう一回お願いしてみるね」

 君は今でも十分に素敵さハニー。光り輝くこのカラ松の隣に立っても君は圧倒的な存在感と神々しさすら持ち合わせているからな。まさにミューズ。美の化身と呼べるだろう。黒よりも少し茶に寄った髪が風に揺られて柔らかく靡き、シャンプーのいい匂いが漂って脳がぼんやりする。いい匂いすぎる。女の子ってすごい。オレの手を握るミューズが一歩距離を詰め、あどけない顔に粉砂糖のような、穏やかで優しい微笑を浮かべた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

220205