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全て君の言う通り
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「見ろよユエ、これぞまさしくチョコロボくん1年分だぜ!」

 見せたいものがあるから来いよと誘われゾルディック家の敷地を跨いだはいいものの、広いリビングに通されたきり放っておかれた俺が手持ち無沙汰のまま豪奢な装飾を眺めていたときのことだ。弾かれたように室内に飛び込み開口一番、呼び出した張本人であるキルアはそう言った。

「はぁ? チョコロボくん……?」

 何を見せるつもりなのやらである。彼がチョコレート菓子を好きなことは重々知っていたつもりではあるがまさかそれを見せるためだけに呼び出される日が来ようとは。壁を飾る古びた絵画を眺めていた俺が視線を向ければキルアはムフフと猫のような笑みを浮かべ、早くこっちへ来いと急かしドアの前で手招きしている。どうやらここに運んで来るのではなく俺がそちらに出向く必要があるらしい。気まぐれな彼らしいワガママではあれど、ここまで来たからにはその自慢の品を見なければ俺としても帰るに帰れない。重い腰を椅子から持ち上げいかにも高級そうな絨毯を踏みしめつつ、少年の待つドア付近へと足を運ぶ。キルアの隣に立ち、俺の胸ほどの辺りにある白い髪の奥を覗き見れば、そこには通路を塞ぐつもりかと思うほど大量の段ボールが、文字通り山の如く高く高く積みあがっていた。

「え……なに、これ」

「だーかーらー、チョコロボくんだって! さっき街に行ったら沢山売っててさ、つい箱買いしちゃったんだよな〜!」

「そーなんだ……」

 これだけの量のたかがお菓子に、彼は莫大な金額を注ぎ込んだのだろう。販売側は純粋な上客に喜んだかもしれないが、彼の恋人兼保護観察責任者の認識がある俺からすれば内心ヒヤヒヤものである。前からこの手の、本人は決して認めたがらないがいわゆる無駄遣いをたしなめたことはあれどどうにもこの悪癖は治らない。それどころが近頃では加速的に物量が増している気すらする。金に困ることのない裕福な家に育ったがゆえ、多少の注意程度ではこの歪んだ金銭感覚は治らないのかもしれない。まだ幼さの残る少年の満足げな表情を見下ろして、俺は小さく呆れたため息を吐き出した。
 不意に視線を感じた気がして高く積まれた段ボールの隙間からその後ろを覗き込むと、そこには黒い服に全身を包んだミステリアスな青年が腕を組み立ち尽くしているようだった。当然見覚えのある彼はキルアの兄であり俺の同業者でもある。もっとも、闇に身をやつし人を殺す彼と闇を縫い情報を集める俺とでは多少立場に違いがあるため懇意にしているというほどの中ではない。利用し、利用される。そんなビジネスライクな関係を保つ優秀な暗殺者の彼だが、ひょっとしてキルアの買い物に付き合っていたのだろうか。表情の変わることがなく掴みどころもないこの男が、子供の買い物に付き合いチョコレート菓子の詰まった段ボールを運ぶ映像はまるで想像が出来なかった。
 俺の妄想を知ってか知らずかイルミは俺と目が合うとすぐに視線を外し、挨拶を交わすこともなくくるりと踵を返し長い廊下の闇の向こうへと消えていった。同業者である、商売敵は嫌われるものだからこんな対応でも仕方がないのだろう。むしろ恨みを買いやすい俺がこの場で殺されなかっただけ御の字と言えるかもしれない。男だというのに艶のある長い黒髪の先が闇に溶けるのを見送りそんなことを考えていたとき、膝の裏に軽い衝撃を覚え思わず「あいたっ!」と声をあげた。

「おいユエ、いつまで兄貴のこと見てんだよ」

 蹴られた程度で体勢を崩したりはしないが蹴った少年は名の知れた暗殺一家の血を継ぐだけあり膝裏がじわりと痛い。眼差しに恨みを込めキルアに目をやると、彼はさも不機嫌そうに、つり目がちの瞳をより一層吊り上げ「兄貴のこと見すぎ。なんかムカつくー」などと、明け透けな嫉妬を口にした。深い意図のない視線ではあったが少年からすれば十分気に障るのかもしれない。以前にも似たようなやり取りがありその時はからかったものだが、想定した以上の暴力が返って来たため同じ轍は踏まない。ひとまず苦笑いしつつ両手を上げて、降参のポーズをする。勝てない人とは戦わないし、そもそもキルアとは戦えないから、諍いを避けるためにも折れる姿勢は大切だ。少し機嫌が直ったか、頭一つ分ほど高い位置にある俺の頭を撫でるキルアの表情は満足気だった。

「待ってろよ……すぐに身長追い越して、ユエのこと見下ろしてやるからな!」

「あぁ、楽しみにしてるよ」

 子供らしい真っ直ぐな言葉にくすりと笑い、俺は床に膝をつくと恋人の小柄な体を抱き締めた。多くの苦痛を味わって来たであろう肢体は細く華奢なのに、能力値の差か俺よりずっと逞しさを感じるのだから不思議なものだ。本当は年上の俺がリードすべき立場なのだろうが、恋の主導権はいつもキルアが握っていた。

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