Why I can not live without her.
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私は机の上に広がる書類にペンでサインを入れた。闇に沈む室内に灯りはただ一つ、手元に置かれたランプだけである。顔も名前も知らない男を前に、商品と金を取引する商談についての契約内容が記された羊皮紙が、何枚も積まれていく。
相手はシルエットだけでもかなり大柄な、恐らく大男だ。私も体格はいい方と自負しているが、それにしたって比較にならぬサイズだった。大人と子供というつもりはないが、そう言っても過言ではないほどに。
そんな大男の膝の上には少女が一人座っている。こちらも闇に覆われほとんど視認出来ないが、小さな灯りに照らされる足は細く白く小さかった。赤いドレスの裾からは痩せた膝が見え、その足に何故か靴は穿いていない。男の片腕は少女の腰に回され、時折思い出したように脇腹をさすっていた。
「……ジョーカー、その子供は一体……」
人間を商品として扱うこの取引において、ほんの少しばかり抱いた興味だった。サインする手は止めぬまま、上目に相手を窺いつつ声を掛けると、男は機嫌良さそうに喋り始める。まるで、子供が気に入りの玩具を自慢するような弾んだ声だった。
「フッフッフッ! おれはこう見えて、人形遊びが好きでなァ……」
笑う男のもう片方の手が少女の足へ伸びる。膝を撫で、短いドレスの裾へとその手が移動する。内股をさすると少女が声も上げずに膝を開いたのを見て、調教は済んでいるのだと理解した。
なるほど、と返した私はペンを机に置き、今しがたサインしたばかりの羊皮紙を男の方へ差し出した。それに気付いた少女が身を屈め手を伸ばす。爪は赤く塗られていたが、それよりも先に、灯りに照らされた少女の顔にギョッとした。
朱を受けて淡く輝く金髪に覆われた肌は白く滑らかだった。唇は爪と同じように赤く染められていて、そして何より、瞳までもが赤い。少女は全てが赤かった。私を見ることすらなく書類のいくつかを取った彼女の手から、男が一つを奪って笑った。
「これはくれてやれないが、うちの商品はいいものばかりだ。表に出な。用意は済んでる」
フフフ、と意味ありげに男は笑い続ける。椅子から立ち上がり、去り際にそっと、暗順応した目で二人を盗み見た。相変わらず輪郭のぼやけた大柄な男に寄り添うように身を預ける少女は、遠目に見ればより一層小さく儚い。開かれた両足の間には男の手が差し込まれ、微かに響く水音に、何をしているかを容易に想像させた。
「フフフ……見て行くか?」
「いや、」
私は慌ててドアの向こうに足を向けた。この男には深く関わらない方がいいという予感がする。人形のように美しく繊細な少女を好きに出来るのは羨ましく思ったが、それでも私は命が惜しかった。
何人かの人間に案内された部屋で売り物を選別して、私はこの船を後にする。恐らくもう二度とあの男と会うことはあるまい。脳裏に残る赤を振り払い、私は自らの経営する店へと戻って行った。
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121006