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毒薬剤師の苦難
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「セイレン! セックスしよう!!」

 ブッと紅茶を吹き出したのは俺だけではなく、ウソップ、サンジ、ナミ、チョッパーまでもが同時に液体を逆噴射させた。



「な、なんだよいきなり……!」

 口の周りを手の甲で拭い、サンジが持ってきてくれた布巾で、紅茶色に染まったテーブルを拭く。突然男部屋から甲板に出てきたと思ったら何の脈絡もなく第一声だ。意味が分からない上に仲間たちの哀れみを孕んだ冷たい視線が痛すぎて泣きそうである。

 いつもと同じく堂々たる姿で現れた我らが船長はその場で跳ねたかと思うと勢いよくこちらに突っ込んできて、腕で肩を、足で腰を、骨が軋むほどに抱き締められて勢いあまってその場に転倒した。凄まじい音と共に俺は腰と背中を強かに打って悶絶したが、ルフィに拘束された状態ではその僅かな身動ぎすら満足に出来ない。しかもバカみたいな力で締め付けられ、更には俺と同じ体格をした重りが上に乗ったせいで肺が圧迫され呼吸困難に陥った。本当に半端ではなく、ギチギチと骨が鳴るほど締め上げられている。死にそうだ。

「ルフィ〜〜〜、お〜も〜い〜ッ!!」

 かろうじて自由になる手首から先でルフィを叩くがもちろん力は一向に弱まらない。当の本人はシシシ、と笑いながら殊更力を込めてくる。このままいくと俺は酸欠で落ちる。ヒィヒィ言いながら周りを見たが、幸か不幸かこの船のクルーは大層許容範囲の広い人間ばかりのようで、何事もなかったかのように各々の作業に戻っていた。広い甲板にはナミ、サンジ、ウソップ、ロビン、チョッパーの五人がいるというのに、締め上げられている俺に伸ばされる手はない。これは非常にマズイことになったと、俺の背中にじっとりと汗が滲んだ。

「ルフィ退けって! 頼むから!」

「イヤだ!!」

「イヤじゃない!」

「おれはイヤだ!! セイレンとセックスするって決めたんだ!!!」

「断る!!」

 両者譲らぬ押し問答に発展するが、分はルフィにあるといっていい。ガチガチに捕縛され上に乗られては俺になす術があるはずもなく、頑固な船長が何の妥協案もなく折れるはずだってない。顔を突き合わせて論じる俺とルフィの近くにいたナミが、ハァ、とため息をついた。

「うるっさいわね! いいじゃないセイレン、一回くらい相手してやれば? あんた猛獣使いでしょ?」

「俺は毒薬剤師! 猛獣使いは副産品だ!!」

 しっかり訂正を入れると「何でもいいわよ」と反論された。全くよくないし、そもそもルフィと猛獣であれば断然後者の方が扱いやすいに決まってる。彼は反発し我を通すため実力行使を図るのだから、こちらからすれば全くの専門外である。

「ルフィ退け!!」

「イヤだ!!」

「男とヤッたって面白くねーよ、ナミに相手してもらえ!!」

「おいコラクソ野郎ども、ナミさんに触れることはおれが許さん!」

「あたしだってタダじゃイヤよ!」

「うるせェ! ナミじゃなくてセイレンがいいんだおれは!!」

「テメェ、ナミさん相手になんつーバチ当たりな……!」

「うるっせーな人の上からまず退けよルフィ!」

「イヤだ!!!」

 ナミ、サンジを巻き込んでの口論が始まって、俺はとうとう途方に暮れるばかりだ。飛び交う怒りの声にチョッパーは慌てふためいてウソップの後ろに隠れ、ウソップはウソップでロビンの後ろに隠れている。

「ルフィはセイレンが好きだから求愛しているんでしょう?」

 イスに座って紅茶を啜っていたロビンが、クスクス笑いを引っ込めてそう声をあげた。怒り狂っていたサンジはすぐにそれに反応して目をハートマークに変えながら黙り込み、それに気付いたルフィも黒髪の美女に顔を向ける。ゴム故に百八十度捩れる首というのは便利なものだ。

「だって、ナミやわたしではダメなんでしょう?」

「ダメだ。おれァセイレンがいい!!」

 ロビンは微笑みながら「ね?」と俺に振ったが、何がどう「ね?」なのかが全く分からない。俺に特別好意を抱いてるのだって、恐らく長年携わることにより染み付いた毒草の甘い匂いのせいだろうし、むしろそういった意味では本当に文字通り食われるのではないかという恐怖すらある。俺がセックスに応じてやる必要性など微塵もない。

「はぁ……分かったよ」

 それでも押しに弱い俺は仕方なくため息をついた。ロビンを見ていたルフィがこちらを見てキラキラ輝いた目をする。今この流れでは、全然純粋に見えない。

「その代わり、セックスはしない。獣相手と同じように、発散処理をするだけだ。いいな?」

「分かった!」

 せめてもの妥協案はそれだ。俺はお人よしでケツを貸せるほど優しくはないので精々出来ることと言えば性欲処理の手伝いくらい。むしろ男相手にそこまで譲歩しているのだから感謝してもらいたいくらいである。
 ニシシ、と笑ったルフィは重さと苦しさに死にかけている俺を再び抱き締め、それから握り拳を俺の胸に押し当てた。まるで宣戦布告だ。

「ようするに、セイレンを好きにしていいってことだな!?」

 全く違ったが、ツッコミを入れるのも億劫になった俺は、黙ったまま痛む頭を押さえて男部屋に戻るのだった。

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120912