ちゃらんぽらん彼氏
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 銀さんに彼女が出来たのは数ヶ月ほど前の話だ。以前から何度か面識のあった弓弦さんが時折万事屋に顔を見せるようになり、それからほどなくして二人は交際しているのだと、弓弦さん本人の口から聞くに至った。長いこと一緒にいるのだから、銀さんも彼女が出来たならそうと一言告げるくらいしてもいいのに、僕も神楽ちゃんも、弓弦さんの言葉に度肝を抜かされたというわけだ。

 そんなわけで週に何度か万事屋を訪れる弓弦さんは、今日も手土産を持参して赴いていた。僕と神楽ちゃんにどら焼きを差し入れしてくれた人のいい彼女は、朝から外に出ている銀さんが戻るのをお茶を啜って待っている。会う約束をしているのに一向に帰ってくる様子のないちゃらんぽらんな銀さんに、よくついて行けるものだとみんなが感心していたのは当然のことだろう。

「銀さん、帰って来ませんね。僕様子見て来ましょうか?」

 かれこれ三十分も待たされている弓弦さんが哀れでそう声を掛けるが、彼女はニコニコ笑いながら「いいえ、大丈夫。もう少し待たせてもらってもいい?」優しくそう答えた。
 それから僕は万事屋に届いた手紙の整理を始めたが、更に半刻、弓弦さんが銀さんを待ち始めて一時間経った頃、ようやく玄関のドアが開く音が聞こえた。

「おーうただいま。新八ー、イチゴ牛乳」

「帰って早々何言ってるんですか銀さん! 弓弦さん来てますよ!」

 開口一番甘味を欲する糖分王にそう言ってやると、彼は何か考えるように眉間にしわを寄せたあと、思い出したようにあっと声を上げた。

「弓弦、お前来てたのか。つーか今日何曜日?」

「おかえりなさい銀さん。今日は水曜日だよ」

「あー……悪ィ、忘れてたわ」

 普通恋人が来る日を忘れるかよと内心で突っ込む。実際に言わないのは弓弦さんを気遣っての配慮だ。
 ろくでなしの銀さんの発言を受けた弓弦さんも弓弦さんで苦笑いしながら「だと思った」なんて答えていた。一時間待たされたのだからもっとなじってもよさそうなものだが、弓弦さんは本当にお人よしというか何というか、銀さんにはもったいない女性だ。

「ごめんなー弓弦、銀さん万年日曜日だから曜日感覚なくてなー」

 ソファに座る弓弦さんの隣に腰を降ろし、肩に腕を回しながらそんなことを言っている。まるで反省の意思のない態度だ。イチゴ牛乳をついだ僕はコップを銀さんの前に置く。

「銀さん、そういう態度はダメですよ。弓弦さん一時間も待ってたんですから。……僕少し道場に戻るんで、ちゃんと謝ってくださいね?」

「へいへい。三時間は帰ってくんじゃねーぞ」

 三時間も何する気なんだか。弓弦さんに頭を下げ、頂いたどら焼きを持って部屋を出る。恐らく子供たちと遊んでいるであろう神楽ちゃんにもこれを渡して、あと三時間は帰らないように言わなければならない。
 玄関で草履を履いてドアを開けると、室内から銀さんの声が聞こえた。

「なー弓弦、怒んなよ。待たせて悪かった。折角二人きりなんだ、イチャイチャしようぜ。気の済むまで抱っこしてやるからさ」

 あの弓弦さんが抱っこしてほしいなんて意外だし、そもそも銀さんがあれほど下手に出るのも意外だし、ちゃらんぽらんだけど、それなりに上手くいってるのだろう。あまり盗み聞きするのはよくないので僕は早々にこの空間を明け渡し、賄賂を渡すため、神楽ちゃんの元へ行くのだった。

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120903