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プレゼントマイクは貢ぐタイプ
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 この家には色々な電化製品が置いてある。エスプレッソ式のコーヒーメーカーに始まり、キッチンだけでも食器洗い乾燥機やら酸化還元方式の浄水器やら過熱水蒸気オーブンレンジやら、とにかくハイスペックな多機能家電が、大して使われもしないのに整然と定位置に並んでいる。ちなみに今挙げたものは全て俺のハニーが欲しがったものだ。トワッチは俺と同じく新しいもの好きのミーハーなところがあり、テレビや雑誌などのメディアで新製品の情報を目にすると必ず俺にその話をした。夏の最新モデルのエアコンは人感センサーが搭載され、しかもコンプレッサーを低負荷状態で稼働させ続けるため室温が上がりにくく、更にサーキュレーション気流により一気に快適な温度へ到達するからと買い替えをねだられたのだってまだ記憶に新しい。年末に出た新型の空気清浄機は加湿や花粉除去はもちろん、ウイルスの感染予防にも効果があり消臭効果や静音性も高いので、それも寝室用に購入した。
 いつの頃からか覚えていないが何故か彼は電化製品を俺にねだるようになり、俺もまた不思議に思うことなく、恋人にねだられるまま何でも買い与えている。俺たちの間では発言権も決定権も実質的には全てトワッチにあるのだが、そんなトワッチが下手に出て俺の承諾を待つのは嫌いじゃない。クールな彼が可愛こぶって「ひざし、俺これ欲しい」と舌ったらずに甘えるのは何とも言えぬ甘美な響きがあった。そしてトワッチは今まさに、ベッドでうつ伏せに横たわりながら、先週発売されたばかりの掃除機の画像を俺に見せている。軽量化された2キロ以下の本体は小型だが吸引力があり1ミリ以下のハウスダストも集塵し、小回りの利くノズルは部屋の角にもブラシが届く形状で部屋中を余さず掃除出来るのだという。正直この家にそこまでの清潔さが必要かは定かではないものの、どちらかと言えば俺も潔癖な方であり埃が床を転がっているのは許せないので、これは何とも魅力的だ。暇になるとフロアワイパーを片手に部屋を練り歩くのが趣味のトワッチにとって、子供にも扱いやすい軽量ボディーというのは殊更聞こえのいい謳い文句なのかもしれない。

「な、ひざし。これいいだろ? 欲しくなるだろ?」

 俺の顔色を窺いながらトワッチが肩を擦り寄せてそう言った。20年近く前から変わらない容姿の幼い顔をした彼は丸く大きな目を輝かせながらこちらを見上げては「今あるの、結構前に買ったじゃん。そろそろ買い替え時だと思ってたんだよ」などと独りごちている。彼はどうせ「なら買い替えちまうかァ」という俺の言葉を待っているに違いなかった。お約束のパターンなのである。こういう時ばかり甘えた声で「なあひざし、俺これ欲しい。お前はどう思う?」と問いかける彼は、買い替える以外の選択肢はないと言外に告げているようだった。ベッドの縁に腰を掛ける俺が乾かした髪を半分に分けて胸元に流し手櫛でそれを整えていると、体を起こしたトワッチが俺の腕にぺったりと体をくっつけてくる。本当にこういう時ばっかりだ。1つ年上の小さな恋人はここぞとばかりに甘えてくる。分かっていても恋人におねだりされるのはやはりどうしようもなく嬉しくて、俺はだらしなく頬を緩ませ彼に目をやった。

「Uh-huh……俺ァ別に今の掃除機でいいぜ。アレ3年前のモデルだし?」

「3年経ったら家電はもう古いっての」

「トワッチはホント新しいモン好きだよなァ。俺のことはポイしないでね♥」

「バーカ。だったら最新モデルにアップグレードしとけよな」

「イエー、オーケイ! 明日もニュー・スタイルのヴォイスヒーローにルッカウトフォアイット!」

「声がデカイんだよ、バカ」

 文句を言うトワッチが俺の足を弱く叩いた。バイオレンスではあるがこれは彼の愛情表現なので俺はされるがままになる。寝癖対策として2つに分けた髪を緩く三つ編みにする俺の傍らに少年は座り、手に持ったディスプレイに表示されたままの掃除機を画像を見せ付けた。悪戯小僧のような少年はまだ答えが出ていないと言わんばかりの面持ちだ。「仕方ねェなァ」妥協して折れてやったテイを装いため息を吐くとトワッチは見た目に相応しい、子供らしく眩しい表情で嬉しそうに笑う。タブレットを脇に置いたかと思えば膝立ちになり、毛先を髪ゴムで縛る俺の頬にキスをした。普段自分からキスをすることなど滅多にないくせに自分の売り方をよく把握している。俺の恋人は全く、タチが悪くも可愛い男だった。

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170221