おじさんと遊星
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若いというのは偉大だ。大志を抱くのも才能を開花させるのも人生計画を練るのも、それは決まって若いうちにしか許されない特権だ。夢も忘れ希望も忘れ職場と自宅とを行き来するばかりの、ヒゲも剃らないくたびれたおっさんの俺には過ぎた青春である。
それなのに、輝きを抱くべき青春をこんな俺のために捧げている遊星は、正直言って愚かとしか言いようがない。
「なあ遊星、今日はダチと約束があったんじゃあないのか?」
「ああ……断った」
「何でだよ。友情は大切だぞ?」
「ああ」
見る気もないのに何故かつけてしまうテレビの正面で、俺はスプリングの壊れたオンボロのソファに座っている。遊星はその隣に腰をかけ、年下の彼女がするかのように俺の肩へ寄りかかっていた。年頃の男の子は何を考えてるのかさっぱり分からん。しかし顔は見なくとも、この青年が今何を思うかはすぐに分かった。
「……あんたが、仕事休みになったから。あんたと一緒にいたいと思ってしまった」
頭が傾き大きな青い瞳がこちらを向く。意思の強そうな光を宿す綺麗な目だ。俺が真正面から見据えるにはその瞳は少し眩しすぎる。普段から多くを語らぬ小さい唇はやはり引き結ばれていて、彼の判断を否定させる気などないと言わんばかりの表情だ。
「まったく……俺みたいなオヤジのどこがいいんだか」
「全てだ。いい奴で、俺を愛してくれて、いいにおいがする」
「ゆーせー、そーゆーのは女の子に言う台詞だからさぁ……」
熱っぽい瞳でじっとこちらを見詰める青年に頭が痛くなったのが半分。それでもこんな変人遊星を愛しいと思うのも半分。
「全く……しょうがねえやつだな、お前さんは」
自分でもそんな複雑な心境に呆れながらも、俺は眩しすぎる年下の恋人の頭を撫でてやった。
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101126