ココの飼い犬
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 俺はテレビを見ないけど、ココはよく見てる。何が楽しいのかといつだったか聞いたときには「楽しいわけじゃないけど、情報が欲しいからね」と笑っていた。その言葉通りココの見る番組は全部ニュースだったから、俺にはなおさら何が楽しいのか分からなかった。いつもの堂々巡り、だ。

「ココ、いい匂いがする」

 お茶を飲みながらテレビを見るココはイスに座っていて、俺はべたべたくっつくためにココの後ろに立っていた。迷惑にならないよう気をつけながら、夕方まで会えなかった寂しさをこれで補う。ココの目線に合わせるようにして首元に顔を埋めるといつもと同じ石鹸のいい香りがする。が、今日はちょっと違う匂いもした。バトルウルフの血を引く俺の鼻はトリコよりも更に優れているので、普通なら消えてしまう臭いも俺の鼻なら捉えられる。だからこそ、ココの体についた嗅ぎ慣れない匂いが不思議だった。

「ああ……抱き付かれたときに、フレグランスを付けた女性がいた気がするよ。移ったのかな、香りが」

 別になんてことはないさ。そんな言葉を言外に臭わせてココがテーブルに頬杖をついた。何だか今日はニュースに夢中らしい。

「……くさい」

 特に何かを言うつもりはなかったのに、俺の口からはそんな言葉が零れ落ちた。今までテレビから外れもしなかったココの目が、こっちを向いた。

「くさい? でも今、いい匂いって言わなかったか?」

「あっ、う、ちが、そういう意味じゃない!」

 ハッとして俺は両手と頭を左右に振って自分の言葉を否定した。もちろんココが臭いっていうんじゃない。ココの服と肌についたこのにおいが、悪臭じゃないけど、ただ好きじゃないっていう意味だ。フレグランス、という言葉が何を指すのか俺は知らないけど、多分、においのあるものなんだろう。胸がむかむかするような、あんまり嗅ぎたくない甘いにおい。
 でもこれをどうやってココに伝えればいいのか。くさいとは言ったけど、不快な悪臭ってわけじゃない。どういう言葉を使えば正確にこの思いが伝わるのか、俺には全然分からなかった。言葉を探して口を開けたり閉じたり、きっと俺の顔は酷く挙動不審な動きをしているに違いない。

「ライトはこの匂いが嫌いかい?」

 ココの言葉に黙って頭を横に振る。確かに甘い匂いが強すぎるけど、強すぎるってだけで嫌いじゃない。もっと違う、もやもやするようなにおいだ。

「じゃあ、この香水をサニーがつけていたら、どうかな。くさいと感じる?」

「……多分、感じないと……思う……」

 想像だから曖昧だが、もしサニーからこの匂いがしていたら、多分何とも思わない。キツい匂いだけど、さっき考えた通り、悪臭じゃないのだ。 俺はまた首を振る。ココがクスクス笑った。

「それはね、やきもちっていうんだよ」

「やきもち……?」

「そう。ライトがボクを好きだから、そう思うんだろうね」

 ココは嬉しそうだ。俺がココを好きだから、このいいにおいをモヤモヤする匂いだと思うのだろうか。俺は頭が良くなくて、ココは頭がいい男だったから、きっとココがそう言うならそうなんだろう。
 ココの背中に顔を押し付けてスリスリしてみる。いいにおいだ。色んな食べ物の匂いがして、色んな香水みたいな匂いの中に、ココの体の匂いがする。俺はこの匂いが好きだ。首筋に口付けるとココはまたクスクス笑って、俺の頭を撫でてくれた。

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