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独占欲の強い人
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「俺さ、マジでそういうのダメなんだ」

 目の前で仁王立ちする十代を、俺は床にへたり込んだままぼんやりと見上げていた。突き飛ばされた左肩が、壁に打ち付けた背中がズキズキと痛む。痩せ形の彼はこう見えてそれなりに力があるから、こうしてその力を使役されると言いなりになるしかない自分が酷く情けないと、やたらニコニコと笑いながら俺を見下ろす彼の顔を見つめながら思った。

「何で帰り遅かったんだ?」

「だ、から……先生の、手伝いを……」

「そんなの知ってるって。俺が聞いてんのは違う。分かってるだろ?」

 彼が一歩詰め寄り、反対に俺は後ろへ後ずさる。逃げ出したいのに背中にはしっかり堅い壁の感触があって、これ以上退がることはできないということを悟った。退路のない恐怖に、俺の手が小刻みに震えだす。ごめんなさい、かすれた声で囁くように告げると十代は笑った。いつもも同じ朗らかな笑い方だった。

「で、今日は誰と一緒に帰ってきたんだ?」

「……っ」

 手が伸びて、殴られると思った俺は咄嗟に目を瞑る。しかし今日の彼は機嫌がいいのか、殴るどころか優しく頭を撫でられた。恐怖と安堵に全身を震わせる俺は指一本すら動かせぬまま、へらへらと笑みを浮かべる彼を見上げて許しを請うように何度も首を振る。

「なぁ、隠さないで正直に言ってくれよ」

 しゃがんだ彼の指が俺の目尻をなぞる。微かに濡れた感触があったのは恐らく俺が浮かべた涙のせいで、そんな俺に、彼は笑顔を貼り付けたままに問いかける。「……剣山、と……翔……」掠れた小声で囁けば「だよな」十代が間髪入れずに頷く。彼は多分、その様子をどこかで見ていたんだろう。穏やかな表情で十代はこちらを見下ろしている。俺は自分と友人の身を守るべく、出来るだけ哀れに、出来るだけ必死に、愛しい恋人の足に縋り付いた。俺の苦痛や苦悩を喜ぶ彼の加虐的思想の矛先を友人から俺に向けさせるため、震える手で彼の上着の裾を握る。

「十代、ごめんなさい、言うこと聞く、何でもするから、」

「剣山や翔たちを巻き込むなって?」

「……、俺、逆らわないし、痛いのも我慢する、ちゃんと約束守るから、十代っ」

「ちゃんと俺の言うこと聞けんの?」

「聞く、聞くから。十代のこと好きだから、お願い」

「俺のこと好きなのは当然だろ?」

 彼は笑う。ニィと笑って、それから俺の額に自分の額を当てて、酷く嬉しそうな顔で「お前は一生俺のもんだよ」と呟いた。

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100221