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王の記憶編の直前
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 結婚してくれと呟いた青年の顔は逆光に遮られ窺えない。ただひたすら真剣で、いかにも深刻な顔でいうものだから、俺は思わず硬直してしまった。親友と同じ外見の彼は純情だ。本気で俺と結婚出来ると信じて疑わず、そして俺がそれを受け入れるとも信じて疑わない強い光を宿した眼差しが射るように俺を見つめている。

「なぁ……日本は同性での結婚は出来ないんだぞ」

 知ってたか、と問えば彼は驚いたように目を見開いた。やはり知らなかったのか。そもそも結婚とかいう制度を正確に理解しているのかも怪しい。苦笑を浮かべると彼はめげずに顔を上げた。窓から差し込む西日が逆光となり彼の額と鋭い瞳を照らす。ドクリと俺の胸が鳴る。

「ならこの国を出よう。……いや、出なくてもいいんだ。キミが俺の隣にいてくれるなら」

 それは泣きたいくらいに嬉しい言葉だ。彼と、そして仲間たちと過ごして来た日々はきっとこの先、俺にとって忘れがたい青春の記憶となるのだろう。だがその未来の先に彼はいないのだ。過去に生きた彼が俺たちと同じ時間を歩むことは不可能で、そうと分かっている俺たちには、彼の発した嘘は優しすぎる。俺は頷く。彼も俺も馬鹿ではないから、そう遠くない未来、別れが真近に迫っているということは理解していた。それが決して避けられない運命で、他の誰よりも、彼が一番悲しんでいるということも。知っていたが、俺は頷き、彼は笑った。出来れば俺も連れていってほしい。彼が生きた過去の世界ならきっと毎日が楽しいはず。そう口にすれば何かが変わると言うのならいくらでも言おう。でも無理だ、それも分かっている。「みんなには内緒だぜ」そううそぶくと、彼は見慣れた勝気な笑みを浮かべて大きく頷いた。

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100217