高杉のお気に入り
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※攘夷時代
じゃり、と地面を踏み締める音が鳴り誰かが近寄ってきたことを察した俺は顔をあげた。西日で一瞬視界が赤く染まったがそれもすぐに慣れ、目を細めながら相手の顔を探る。黒い髪を風に弄ばれる男は俺と目が合うとニィと唇の端を持ち上げて笑った。
「酷ェ臭いがすると思ったらまたお前か。今度は何作ってやがる」
「晋さん! ああいや、今度はちゃんと、食べれるものを作ってるんだよ!」
酷い言い草ではあるが、俺はあまり料理というものが得意ではないので仕方あるまい。戦続きのこのご時世、調理なんて焼く煮る干すくらいのもの。うまい飯にありつける方が希少である。
俺の隣にしゃがんだ晋さんが近くにあった木の棒で、焚き木の中心をつついた。小さな芋がコロリと火の外へと転がる。
「ほう、てめーはこの黒い芋を食うつもりか?」
「まさか! これは晋さんの分!」
「はっ、俺を殺す気か」
沈み始めた夕陽が、俺たちが根城にしているボロい廃屋と共に晋さんの肌を朱に染めていく。皮肉たっぷりに文句を言うくせに小枝を捨てた彼は俺の傍ら、腐った木材がかろうじて形を維持している縁側に腰を掛けるのだから、晋さんはほとほとひねくれ者だ。
辰馬さんが密かに栽培していた芋を貰い焼いたはいいが、火力の調整が難しいため芋は焦げはじめてしまっている。そんな結末を予知したからこそ、辰馬さんも小振りな芋を渡したのかもしれないが。
「全く、てめーは本当に役に立たねぇ」
「酷いや晋さん……」
「いつまでたっても銀時にからかわれる訳だ」
そう言って晋さんは所々が黒く焦げた芋を手に取った。多少冷めてはいるだろうがまだ熱いのか、反対の手に持ち変えたあと芋を半分に割る。断面からぼわりと白い湯気が立ち上り、芋のいい匂いが漂った。
「おいおい、中まで焦げてるじゃねえか」
茶色く変色した芋をかじり晋さんが笑う。俺ももう1つ焦げた芋をつつきながら釣られて笑った。酷いことしか言わない皮肉屋の口が、久し振りに愉快そうに歪んだ気がした。
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100901