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小さな友
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 ロゼと手を繋ぐようになった日から、こいつはおれに対して徐々に心を開くようになった。慣れるために寝食を共にし、朝から晩まで一緒に過ごすというのも功をなしたのかもしれない。最初のひと月ほどは黙っておれに付き従うだけだったが、半年ほど経った今では、名前を呼び、自分から手を伸ばし、おれの気を引こうと話を振るようになった。子供の成長というのは目を瞠るものがあると聞いてはいたものの、こうして実際に触れ合うとよく分かるものである。もっとも、それを以ってしても半年かけてようやくおれと会話が出来る程度なのだから、この子供が過去に受けた苦痛はとても計り知れなかった。

「エース、お話してー」

 半年ほど前から船内で始まった「子連れは早く寝ろ」という風潮のせいで近頃早めの就寝となっているおれがシーツと枕を整えていると、不意にロゼがカーゴパンツの裾を引きながらそう言う。
 それというのも、海賊が何者かということを知らなかったこいつに有名な海賊の話をいくつか聞かせてやったのだが、どうもそれをいたく気に入ったらしい。二、三日もすると寝る前に話をねだるようになった。はじめの内はおれの父親ということは伏せてゴール・D・ロジャーの伝説や白ひげの話を聞かせていたが、こう毎日続くと話のネタもなくなるもので、ここ数週間ではおれの体験した航海の話を聞かせてやっている。その中でも特に食い付きがいいのは悪魔の実の話である。

「いいぜ。寝る準備したらな」

 既に寝巻き用の軽装に着替えていたロゼはおれの言葉を聞くとベッドに乗り、掛布代わりのタオルを腹にかける。普段から軽装なおれはパンツ一枚になって、ロゼと同じく横になった。おれの方を向いて話を待つロゼの顔を見ながら何を話そうか考える。

「そうだな……じゃあ今日は、おれの弟の話だ」

「おとうといるの?」

「まあな。っつっても血は繋がってねェし、しかもバカで無鉄砲なヤツなんだな、これが」

 へー、とロゼが相槌を打つ。ルフィは弱いくせに口ばかり一人前で、よく泣くくせに我慢強い変なヤツだ。ゴムゴムの実を食べたのにおれには一度も勝てなくて、それでも負けん気ばかりは人一倍強い、バカで、可愛い弟である。徐々に悪名を上げつつあるあいつが一体今頃どこで何をしているか知らないが、きっとあいつのことだ、楽しくやっていることだろう。
 ゴムの特徴を活かした攻撃が跳ね返り自爆したという話や、食い意地が張ってるせいで腹が膨れるほど詰め込むという昔話をしていると、じっとこちらを見ていたロゼがごろりとこちらに寝返りを打った。元々肩が当たるほどの至近距離だったのが更に近くなる。腕を伸ばして頭を撫でてやるとロゼは鼻までタオルを被った。照れているのだろう。

「エースはおとうとのこと好きなんだね」

「おう。今はロゼ、お前ェのことも好きだけどな!」

「……」

 思ったことを中々口に出すことが出来ないロゼが黙り込んでおれを見つめて、何を思ったか体温の高い額をおれの胸にくっ付けて丸くなった。子供の細い腕がおれの腹に乗って、甘えたいのかと思ったおれもロゼに向き直り、小さい体を抱き締めてやった。

「……大好き」

 絞り出されたのはそんな言葉だった。タオルを頭まで引きずり上げて、その気持ちを伝えようと力強くおれの体を抱き締めているのだと気付く。初めてこの船に来たときよりは多少肉の付いた体を殊更強く抱きしめて、その背中を撫でてやった。

「ほら、もう寝ろ。おやすみな」

 おれの腕を枕にして頷くこの子供を、護ってやりたいと思う。死の淵から救った親父のように、今度はおれがこの子供の心に根を張る恐怖から救ってやりたい。
 白ひげ海賊団に入って子供扱いされるうちに人に甘えるということに少しずつ慣れてきているおれではあるが、やはり面倒を見る方が相に合っているのかもしれない。おれがいなければダメだという、庇護欲を満たしてくれる小さな存在を、おれは知らずうちに愛しいと思うようになっていた。

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120728