Mother virus
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私がユアンに出会ったのはまだ幼い頃であった。研究施設内の冷凍室にあるカプセル。薄氷の張る金属と裏腹に凍結しない緑色の液体。白い肌に白金の髪、虚ろな赤い瞳と笑みを浮かべる桃色の唇。
ウィルスの培養体として低温保存されたその人間は少年と青年の狭間を彷徨う絵も言われぬ頼りなさがあった。それ故に彼は水彩画で描かれた女神のように儚く美しく、私は一目でその虜となった。
研究所に出入りする度、私は彼を見に冷凍室へ赴いた。手足が凍えるほど寒い部屋だったが、ユアンの存在が私の胸を温めた。
幼い私は、気付けばユアンと同じ年頃になり、それをも追い越し、そして権力と力を手にした。
風に煽られ揺れるヘリコプターで書類を読みながら昔を思い返していると、隣に座るユアンがしなだれるように寄りかかってきた。冷凍室から解放した彼は年を取らない。何年も幼さを滲ます美しい顔のままだ。
「アルバート、次はどこへ?」
彼は出掛けるのが好きなのでヘリコプターに乗る度にそう問いかける。普通とは違う見た目のせいで目立つ場所には赴けはしないが、こうして景色を見るだけで楽しいのだろう。書類を持つ私の手に細い手が重なり肩に頬をすり寄せてきた。
「さてな。どこがいい?」
「暖かくて、アルバートがいるところならどこへでも」
冷却保存されていた頃を思い出すためか。南極にある研究所には行きたからず、ユアンは専ら暖かい土地を好んだ。
手を握り、私の頬へ口付ける。顔を向けると唇は私の口元へ寄せられ啄むようなキスが延々繰り返される。慣れた光景に、操縦士も何も口にすることはなかった。
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100406
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