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保健室の恋人の話
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 先生と俺は付き合っている。もちろんどこどこに買い物やら付き添いやらではなく、そういう意味として、だ。恐ろしく鈍い先生をどうにかこうにか落としようやく恋人という関係にまで漕ぎ着けたけど、それでもやっぱり教師と生徒って立場があるからあんまり一緒にいられなかったりする。だから麓助にも負けず劣らず保健室に入り浸っているのだが……一体どうしてこんなことになったのだろうか、誰か教えてほしい。


「……つまり、キスをすればいいんだよね?」

 俺の両肩に手を乗せたまま先生が言う。まだ教師と生徒という立場を気にしていつまでも煮えきらない、実は俺の押しに負けたから仕方なくずるずる付き合ってるんじゃないかと挑発したのが間違っていたのか。
 普段より真剣な、それでいてやはり迷っているような口振りの先生が声を潜めて、身長の足りない俺に合わせて体を屈めた。

「せ、せんせ……」

「やめておくかい……? あとで後悔しても、若狭のファーストキスは返してあげられないよ」

「わ、わかってる……!」

 別に女じゃないんだからファーストキスとか初体験とか気にしない。でもしたことないからこそ上手に出来るのか不安だし、そもそも息をどうするのか、顔って傾けるのとか、色々疑問で仕方ない。ちょっと強気になって大人を煽るんじゃなかった、なんてへこみそうだけど、先生が優しく「恋人らしいことがしたいなら、若狭が嫌でなければキスをしようか?」とか「緊張しなくて大丈夫だからね」とか言うもんだから引くに引けなくなってしまった。俺のバカ野郎。

「はい、じゃあするからね。目を瞑って」

 これでもかってほどきつく目を瞑ると頬にひんやりした指先が触れて俺の心臓の音がそれはもう激しく鼓動した。握り締めた拳にじわりと汗が滲んで、遠くに感じていた先生の、少し強いアルコールの匂いが鼻先を霞める。ドクドクバクバク、心臓の音が聞こえてしまいそうだ。死にそう。硬直する俺の顔を撫でた指が緩やかに下へおり、唇をなぞったあと静かに顎を伝う。最近出始めた喉仏を指が擦って、それから、唇に柔らかいものが触れた。暖かくてしっとりしていて、微かなリップ音を鳴らしながら接触を繰り返す。どうしていいかわからず呼吸を止め歯を食い縛る俺を宥めるような動きで大きな手が背中を撫でた。キスってこういうものを言うんだなと現実逃避をして早く先生が離れるのを待つ。緊張で頭がどうにかなりそうだ。
 数時間にも感じた僅か数秒ばかりのキスが終わり俺はうっすらと目を開き、そしてそこでまた固まった。

「せんっ、んむっ!?」

 間近にあった先生の顔が近付きまた唇に触れる。でもそれは今までのようなものではなく、ぬるりと、生暖かく湿った何かが俺の唇を舐めたのだ。意味も分からずピクリとも動けない俺の腰が押さえ込まれぺちょぺちょそこを舐められる。身長差で段々顔が上に向いて俺の唇が開くと先生の舌は容赦なくそこに入り込んだ。ぬるぬるした暖かい舌べらが口腔を探り、舌を絡めてはひっぱられる。息がどうのとかいう不安はどこかに消え去り俺は必死で呼吸した。懸命に息を吸っても先生の唇がすぐにそれを塞いでしまう。舌と舌が擦り付けられると頭の芯がじんわりと溶けそうに気持ちいい。夢中になってそれを吸うとちゅうっと吸い返され思わずため息のような吐息が漏れた。
 ちゅぱ、なんてやらしい音を立てて唇が離れるともう俺の震える足では自力で立っていられなくて、腰と背中を抱いてくれる先生の腕に縋りつき、大人に楯突くものじゃないなと反省するのだった。

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