幼馴染の話
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 俺と松煙は物心つく前もついてからも、いつでもどこでも何をするにも常に一緒だった。チビでうるさい俺と、俺よりほんの少し背が高く物静かな松煙はそれ故に兄弟のように仲が良かったし、実際何度か間違われたりもした。俺も松煙も目も顔も丸い童顔だから、子供の頃は似たような顔だったのかもしれない。
 書物の溢れる薄暗い室の中で見る幼馴染の顔は昔と変わらないように思えた。長い睫毛がふるりと揺れて、重なった唇の隙間から漏れる声はどことなく甘ったるい。柔らかい頬に掌を這わせて唇の角度を変えるため僅かに肌を離すと、俺の舌を吸っていた松煙の舌がそれに追い縋る。舌先をちろちろと舐め合うだけの拙い行為がこんなに情欲を湧き上がらせるなど、松煙とこういう関係にならなければ気付かずにいたのかもしれない。

「可愛い、松煙……」

 息を荒げ惚けた瞳で俺を見上げる顔は幼かった。達するときの泣きそうな、切羽詰まった顔はもちろん好きだが、こうして快楽を求めて蕩ける顔も好きだ。舌を伸ばしたまま開きっ放しの唇の端からたらたらと流れる唾液が明かりに照らされて鈍く光を反射する。文官として日々を過ごす男の、俺と違って筋肉の隆起の少ない体に手を滑らせていく。服の上を撫ぜるだけでは足りなくなって上衣の留め具を外し、薄暗い室内に浮かび上がる白い輪郭に指を這わした。

「ん……仲権、くすぐったい……」

 耳に優しい大人しい声は若干掠れている。筋張った喉を辿り浮いた鎖骨を親指の腹で摩るとこそばゆいのか僅かに首を竦めた。そのまま手を下に滑らせると小さな突起に指が掛かって、その瞬間に松煙がひくりと肩を震わせる。彼の乳首はぷくりと膨らみ硬くなっていた。男でもこんなになるものなのかと少々不思議な気分になりながら優しく押し潰すとそれは弾力を返しながらも形を変えた。

「んっ、あ……」

 肉の付いていない薄っぺらな胸を揉みながら時折乳首を捏ねる。俺は力が強いから松煙を痛めつけぬよう気を付けていたのだが、幼馴染の唇から吐息混じりの声が落ちるとどうにもその手に力が篭ってしまった。痛みはないようだが、稀に眉を寄せて唇を湿らす姿に不安になる。空いている唇を彼の顔に寄せるとすぐにそれが重ねられ、先程の口付けで熟れたように赤らむ唇が俺に吸い付いた。

「はぁ、ぁ、んむ……ん……」

 伸びる舌先を吸うと湿った吐息と唾液が俺の口腔へ流れ込む。嫌だとは思わなくて、むしろ甘いとさえ思わせるそれはきっと俺にとって媚薬となりうるのだろう。もっとそれが欲しくて、松煙にも感じてほしくて、夢中になって口を吸った。棚に背中を預ける松煙の足が次第に震え始めて徐々に体が崩れていく。脇に腕を差し込み華奢な体を支えると、俺は隣の長机に彼を座らせた。

「うぅ、仲権……駄目だ、こんな所で、房事に及ぶなど……」

「何今更言ってんだよ……誘ってきたのは松煙だろ?」

「誘ってなんかない! 俺はただ、口付けがしたいと……!」

「口付けでここ膨らませてりゃ、十分誘惑してるって」

 いくら来室する者が少ないとはいえ、人目に着くかも知れぬ共用の場所で肌を露出させることに松煙は躊躇いを感じているようだ。そもそもこんな場所で口付けを強請る幼馴染こそが悪いと思うのだが、いかんせん俺も彼もまだ若く、分かっちゃいるが自制が効かないことも多い。濃厚な口付けに興奮した下腹は互いに質量を増していて、出さない限り、暫くは自室にも帰れそうになかった。

「入れないからさ……俺の、触ってよ。擦り合うだけ、それならいいだろ?」

 唇が触れる位置でそう問うと、松煙は顔を真っ赤に染めて視線を泳がせた。乳首を捏ね唇を吸い、膝で下肢を圧迫しながら首を傾げる。そうすると掠れた声でずるいなどと泣きながら、可愛い親友は背中を反らして頷いた。腰帯を解き下衣と下着をずり降ろすと硬さを持ち形を変えた男根が現れる。体格に見合った大きさのそれは明かりを受けて先端の濡れた部分がてらてらと光って卑猥な画だ。恥ずかしそうに顔を俯ける松煙の手が伸びてそこを隠そうとするので、俺はその手を絡め取り、耳まで赤い顔を覗き込んだ。

「こら、隠すな。もっと見せてよ」

 ぶるぶると顔を横に振る彼の瞳は泣きそうに潤んでいる。震えている手を握りながら俺の腰帯も外して、その隙間から白い腕を導く。躊躇いはしたものの抵抗せずなすがままにされた手が俺のそれに僅かに触れて、俺もふうと息を吐き出した。

「ん……俺も辛いわけ。手でしてよ」

 触れるだけの指がひくりと動き、ややあってから爪の先で括れた部分を優しく引っかかれる。何だかんだと言いながらも頼めば何でもしてくれるのだから、松煙はほとほとお人好しだと思いつつ、俺は俺で彼の男根に指を絡め扱き始めた。濡れそぼった先端から溢れる先走りがたらたらと竿を伝って俺の手を濡らし、上下に動く度にくちりくちりと湿った音を鳴らしている。閉め切った静かな室内には俺と松煙の呼吸と水音が響くのみで、その異様な空気に鼓動が早まっているのが分かる。先端を親指の腹で撫でると「あっ……だめ……」駄目などと思ってもいないであろう甘えた声が頭上から落とされた。俺の男根を摩る手が止まって、促すように名前を呼ぶとまたそれが動き出す。

「はぁ……あぁ……あ……」

 蕩けた瞳で息を漏らす松煙の唇はだらしなく開き、ひっきりなしに声と唾液を漏らした。快楽を追うのに夢中で俺への愛撫も辿々しい彼がいつもこんな様子で自らを慰めているのかと思うと下腹が更に熱くなる。寝台に横たわり、泣きながら、この細い指で自分の恥部を弄り、彼は毎夜果てるのかもしれない。我ながら逞しい想像力だと苦笑いを浮かべ彼の男根を扱く手の動きを早める。こっちがすぐに果ててしまいそうだった。
 やや白く濁った体液を流しはじめた先端に唇を寄せてそれを咥えてやると「あっ、いやだ、やだ、仲権……そんなとこぉ……!」困惑した松煙が涙混じりにそう喚いた。俺としても答える余裕は既になかったので唾液を蓄えた口腔でじゅぶっと音を鳴らしながらしゃぶることで応答する。逃げようと後ろへにじる腰を片手で抱き寄せなるべく深く口内へ導くと、彼の呼吸が浅く早くなりだした。はっはっと狗のように掠れた呼吸を繰り返し俺の男根を彼の手が擦る。小さな声がもうだめ、もうでると繰り返し始めたので腰を押さえていた手を下腹へ移動させ、中指を尻の穴へと押し込んだ。

「ひぃ……ッ!? や、らぁ、ちゅうけ……! いぃ、れなっ、てぇ……!」

 俺が言ったのは男根を入れないという話で、指を入れないとは言ってない。そんな弁解もこの空気でするには些か無粋だったので、男根をしゃぶる頭はそのままに、容赦なく内壁を擦りたてた。

「あぁぐ、はふ、はぁ……! ひぃ、んんん……っ!!」

 俺の頭を押さえ付け松煙が腰を震わせる。先程までの細かい痙攣ではなく一際大きくびくりと体を弾ませると、それに合わせるようにして男根の先端から体液が溢れ出た。粘り気の強いそれをやや苦戦しながらも飲み下して、ほとんど動いていない細い腕に腰を擦り付けた。

「ん……は……あー……っ」

 弱々しく握られて息が詰まる。何度か揺するとじんわり腰の奥が痺れて、とろとろと精液を掌に吐き出した。ぐったりと書物に背を預ける松煙が、俺の下衣から手を抜き取り息も絶え絶えにふっと笑みを作る。

「俺、仲権のその顔、好きだ……」

 疲労感の滲む、心底愛おしいと言わんばかりの優しげな瞳が細められる。俺も同じように笑いかけて、精液に汚れた掌を布で拭いてやった。

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