知将と捨て犬の話
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 男にとって美しいという言葉は褒め言葉ではない。特にこと武人に関しては美しさなど無用なものであるし、そんなものに執着するのは我が軍でも張郃くらいのものであろう。だが私の前に膝を付き、嫌な顔もせず男根をしゃぶるそれは、武人だというのに美しかった。燕京……数年前に戦場で拾った人間の名で、私が付けてやった名である。

 主簿の役に付く私が戦場に立つことはままあることだ。人を操る術に長け頭も切れるのだから軍師に代わるは当然の人選といえようが、これに関してはもう1つ重要といえる事柄もある。燕京の監視だ。
 黒い髪に同じ色の瞳を持つこの男は必要以上に私に懐いている。曹操の前ではろくに口を開かぬ癖に、私が横にあれば饒舌にあらゆることを語り、戦でも私がいなければほとんど進軍などせぬ癖に、やはり私が指揮を取れば舌を巻くような戦功を挙げて帰ってくる。これはまさに狗だった。主たる私の寵愛を受けるために知を述べ武を披露する。純粋が故に少し頭の弱いこともあるが、それでも凡愚どもと比べれば何倍もましだろう。曹操や曹丕はそれを理解した上で燕京の側には常に私を置き、飼い主としての務めを果たせと人の気も知らず押し付けた。確かに鮮血を浴びて佇む軍神に毒気を抜かれ拾って帰ったは私だが、それは全く不条理であった。

「ん……仲達、気持ちよくない……?」

 黙って見下ろす私を不審に思ったか燕京は口を離してこちらを見た。形のよい淡い色の唇が私の一物へ悪戯に触れ、かと思うとそれの裏を根元からゆっくり舌でなぞる。初めはあまりに拙く快楽の伴わない舌技ではあったが、近頃では練習の甲斐あってかそれなりに上手くなったように思う。最も、男が男のそれをしゃぶるのを上手くなろうとも利点などないのだが。

「ああ……いや。黙っていればお前は美しいと思ってな」

 そそり立つそれを両手で包み愛しそうに頬をすり寄せる姿は淫売そのものであったが、こうして破顔するのも私の前でだけなので、それを思うと、すれ違う者が皆振り返るような麗人を手篭めにしているという、加虐主義故の支配欲が満たされるのもまた事実である。頬に手を添えると美しい狗は口を開き口腔に私を導く。熱く湿った中にある柔らかい舌が這うように刺激し息が漏れる。女の膣を連想させる窮屈な温かさに眉を寄せて堪えていると、燕京は余った部分に指を絡め殊更丁寧にそれを擦った。

「は……上手だ……」

 口を窄め頭を上下させる燕京の頬にさっと朱が挿して、更によくしようとその下にある袋まで指が伸びた。細いがやや骨張った掌に転がすようやんわり握り込まれて思わず眉間に皺が寄る。すぐに出てしまいそうだ。人払いをしてあるとはいえ声を上げれば宵の空気に乗って周りに届くことも考えられる。戦の最中には男同士欲求を解消することも少なくはないだろうが、私もその1人と思われるのは癪だ。歯を食い縛り、極力声を殺して体を震わせる。どろりと溢れ出た白濁は燕京の舌に受け止められ、そしてそのまま嚥下された。よくもそんなものを飲めたものだと感心するが、これにとっては愛する私の体液だと、苦ではないらしい。私には到底理解出来ない理屈だ。

「燕京、こちらへ来るがいい。今日は武勲を多く立てたからな、可愛がってやろう」

 名残惜しそうに男根にしゃぶりついていた燕京の体を、木箱の上に布を敷いただけの粗末な寝台の上に引き上げると、男は纏っていた服の前を開いた。日に焼ける腕や顔よりも色の白い肌は女のように滑らかではあったが、可憐な顔と違い戦う者らしくしっかりと筋肉もついている。華奢だが、脆弱ではない体と言えた。

「ふん、服を脱いで、どうしてほしいのだ?」

「あ……触って……舐めて、ほしい」

「この私に赤子の真似をして乳を吸えと? 変態め」

 適当に罵ってやると燕京は服の裾をきつく握り締めて唇を震わせる。羞恥を煽られるのが好きなのか、貶されるのが好きなのか、私には分からぬが、服の上からでも一物の膨らむさまが見える程度には興奮しているらしい。薄い胸板の上に乗る飾りを何度か指の腹で擦ったあとそこに舌を這わせると、男ははっと息を漏らした。敵の伏兵を破り多くの将軍の首を取ったこの武人をどう可愛がってやろうかと頭を巡らせながら乳を吸うと、甘えた声で狗が鳴く。他には手を触れず胸だけを責められるというのは男の燕京には辛かろう。すぐにでも性器を擦り解放したいだろうが、しかしそれを我慢し、自らの身が自由にならない苦痛を、これは楽しんでいるはずである。

「あ……あぁ……」

 舌先で乳首を押し潰してやると燕京の喉から切ない声が絞り出される。鈴を転がしたような耳に心地よい声が喘ぐのはまた一段と背徳的だ。白磁の手が下腹に滑り下衣を留める帯に伸びたのに気付いて「どうした、脱ぐのか?」下から覗き込む形で整った顔を見つめ問いかけると、またその頬が赤くなった。口をぱくぱくと開閉させながら言葉を選ぶ美姫の瞳には涙がたっぷりと湛えられている。鬼畜と名高い曹親子が見れば跳んで喜びそうな表情であったが、この顔を知るのは私だけだ。いい気分である。
 握り締められたままの帯に手をかけそれを外すと緩い衣はすぐに腰から落下した。「脱いでみせよ」唇に笑みを乗せて囁けば男はきゅっと下唇を噛み締め、体を離した私に頷いてみせる。身につけているものを外し、小さな明かりにその肢体が照らされた。筋肉の付いた長い手足はもちろんのこと、形を変え腹に付きそうに反る性器でさえ独特の醜悪さはなく、むしろ繊細な美しささえ滲むようだと息を飲んだ。

「あ、う……仲達、もう……」

 啜り泣くような声で狗が刺激をねだったので、私は人差し指をその先端にそうっと押し付けた。止めどなく粘液を溢れされるそこは既にこれ以上はないというほど張り詰めていたし、限界が遠くないということは十分察せられる。敏感なそこを滑りを利用して円を描くよう撫でているとふうふうと荒い呼吸に様変わりして、掠れた声が何度も私の名を呼びだした。一応褒美と言った手前、腰が抜けるほど犯してやりたかったが、流石に明日も激戦を控える将にそのようなことは出来まい。奥で収縮する穴に指を這わせ強引に中指を押し込むと狗は声もなく瞠目した。たかが指1本で背中を反らし息も絶え絶えに体を弾ませるのだから、これは些か感度がよすぎるだろう。

「今日は指で我慢しろ。城へ帰ったらいくらでもくれてやる」

 中のしこった部位に指を当て力を込めて往復させる。ついでに性器に指を絡め上下に擦ってやると燕京はとうとう瞳から涙を溢れさせて、薄い布をきつく握り締めた。

「あ……あっ、でる……!」

 切羽詰まった声に合わせて追い立てると掌にどろりとした液体が吐き出された。指を引き抜くとそれは糸が切れたかのように脱力して、それでも涙を流しながら私の手に射精したことを詫びる美しい狗に笑みを向ける。私は特に怒ったわけではなかったが、手に付いた体液を狗に舐め取らせ、服を着せ、それから室を後にした。下肢に集まったこの熱はまた後日、我が狗の痴態で発散させてもらうとしようと思う。

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