PTSDの話
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 俺のこの悪癖が始まったのはいつの頃だったか、そんなことは既に記憶から薄れ明確に覚えてはいないがそれでも突然始まったわけではなく、長い時間をかけて徐々に馬脚を現したと言っていいだろう。トワッチに対する親愛だとか執着だとかいったものが時間が経つにつれ、より顕著により強く、歪みとなって現れたのかもしれない。これがトワッチにとって苦痛であり精神を苛むものだということも、また世間的に見ればこれは良くない兆候であるということも重々に理解していた。理解してはいたが、だからといってやめることは適わず今日もまたルーチンワークの1つのように繰り返し、それによって俺は確かな安堵感を得ているのだ。
 トワッチは不完全だ。時間が止まり自然の摂理から取り残され、かつて味わった死の恐怖と絶望に囚われ震えている。彼の表面を覆う和やかな顔しか知らない他人と、物心ついたときから彼と共に育った俺はわけが違う。彼の表側を形成する明るい笑顔も裏側を構成する仄暗い憂い顔も等しくトワッチであり、それらを正しく理解し支えてやれるのは俺だけなのだという優越感が、俺をこの行為に走らせる最もたる要因なのかもしれない。分かっていてもやめられず、解決策を講じることもなく、そしてトワッチもそれを指摘することはなかった。トワッチは不完全な彼に心酔し倒錯に浸る不完全な俺を、それも1つの愛として受け入れてくれている。もはや俺の問題なのかトワッチが俺を甘やかしすぎているのが問題なのか分からないこの有様を、旧友であるイレイザーヘッドこと相澤消太は「そりゃ共依存の悪い見本だ」と称していたが、そんなことすらこの際どうだって構わなかった。嫌悪感たっぷりに吐き捨てられた言葉が、しかし俺にとっては愛おしいトワッチとの関係を簡潔に表す最良で賢明で祝福に満ちた素晴らしい言葉だと感じていた。俺がトワッチを敬愛するのと同じく彼もまた俺の存在を必要としてくれているのであれば、それに勝る幸福などない。そんな気すらした。イレイザーは俺とトワッチの繋がりを知らないからそれが分からないのだろう。慧眼な友人にも見えない俺とトワッチのこの関係は、やはり当事者である俺たちにしか理解が出来ないのだ。

「……ひざし、こっちに集中しろよな」

 不意にトワッチの不満気な声が俺を思考の海から呼び戻した。小柄な少年は膝上に乗ったまま下腹部へ下ろした手で俺のチンポを甘く握っている。見れば先ほどまで興奮に猛っていたそれは雑念により今は半立ち状態で、擦っても反応を示すどころか硬度を失うそれにトワッチの方が参ってしまったようである。抱き着き体を密着させたままのトワッチが子供特有の柔らかそうな頬を膨らましむくれた表情で「せっかくシてやろうと思ったのに」とボヤく。ふて腐れた少年の機嫌を治すためにも俺は彼へ頬擦りすると懇願するような声音で「怒んなよトワッチィ♥すぐおっきくするからさ♥」猫撫で声とはこのことだと頭の隅で考えつつ彼に頬をすり寄せた。小振りな唇に舌を伸ばせば気付いたトワッチが顔を上げ餌を待つ雛鳥のように口を開く。それこそ子猫を思わせる舌先が挑発的に俺の舌べらを舐める。

「……1分以内に立つか?」

「トワッチがペロペロしてくれりゃすぐだぜ?」

 つい数分前まで考えていた何やらは霧散し浴室に漂う水蒸気となって消えてしまった。気分が乗って来たらしい恋人の悪戯な微笑みが俺の脳を再び支配し始め、舌と共に小さな手の平が上下する。温かい湯船の中でもたらされる性感は若干の鈍さはあったものの確かな熱が微量ずつ積み重なって腹の中に蓄積されているようだった。リクエストに応えて恋人が淫らに舌を舐め続ける中俺のチンポは一度失った興奮と熱を取り戻すためにも着実に頭をもたげ始める。愛しい恋人の甘ったるい粘液を啜りながら得る性感は熱い本流となり、俺の思考も何もかもを奪っていった。

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1611114