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PTSDの話
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 10分か30分かはたまた1時間か、咽び泣く少年を組み敷いたまま永遠とも思える時間、俺たちはキスをした。キスと呼ぶには些か一方的な行為ではあるかもしれないが次第に弛緩するトワッチを見れば俺の行動も少しは許されていいはずだろう。恐怖に震えていた子供の手に力はなく今はただ俺の手の甲に触れているだけだ。トワッチ、と名前を呼ばれて目蓋を持ち上げる彼の瞳に先ほどまで浮かべていた恐怖の色はなく、涙で滲むそれは快感に甘く蕩けていた。
 耳を塞がれることで頭に響く水の音が恐怖の対象でなくなるとき、彼はこうして悦楽に身を委ねる瞬間がある。その予兆は手の力が抜けるだとか目の焦点が合わなくなるだとか子供の声に似つかわしくない艶やかな喘ぎを漏らすだとか、その時々で違っている。それでも彼の恐怖を快楽で上塗りすることが出来たという事実が、ただただ俺の胸を震わせた。死神の腕から逃れ俺の体の下で嬌声をあげる彼が愛おしくて仕方がなく、死を跳ね除け自らの元へ手繰り寄せることが出来たと、そんな錯覚に陥った。
 トワッチの瞳はこちらを見据えて俺の行動を待っているようだった。「トワッチ、キモチイイか?」唾液で濡れた唇を舌先でなぞりつつ尋ねると少年は「キモチイイ」と掠れた声で囁く。「これ好きか?」再び問いかければ「スキ」と、まるでおうむ返しの言葉が囁かれた。味わった死の恐怖によるものかはたまた彼自身の個性によるものなのか判別が付かないが彼の様子は幼い頃のそれと代わりがなく、年上の素振りすら見受けられなくなっていた。それでも満足した俺はトワッチの額に唇を落とし震える目蓋にもキスをする。「ひざしぃ……」普段の快活な様子からは想像がつかないほど甘えきった声が俺を呼ぶ。ずくりと、頭に昇っていた血が下半身へ流れ込むのを感じた。

「トワッチ……これ、もっと続ける?」

 この状況で拒否するなどあり得ないことだと理解しつつ問いかけたのは、これが彼の意思で続行していることなのだと意識させたかったからだ。水の音に恐怖はなく快楽に染まった俺とのこの行為はトワッチ自身に選択する権利があるのだと、そういう認識のもと記憶を上書きし、彼を恐怖から引き剥がしたかった。その自己満足とも言える概念で俺は何年も繰り返し彼の恐怖を呼び起こし、それを悦楽で塗り潰そうと画策している。これが正しいことかどうかなどもはや分かるわけがなかった。窓の外から絶えず聞こえていた衝撃を含んだ雨音はいつの間にか止んだようだ。それに気付けないまま両耳を塞がれたトワッチが熱のこもったため息を零す。

「ん……これ、もっとしたい……キモチイイ……」

 オーケー、と返事をした。口の周りを唾液で濡らしたトワッチが誘うように舌を伸ばし今か今かと蠢かせる。俺のものか彼のものか分からない透明な液体がその中でくちゅりと音を立て、恐らく俺に聞こえているよりも鮮明な音を感じたであろうトワッチの肩が震える。この震えが死神のもたらす恐怖によるものではなく俺が与えた快楽によるものなのだと思うと、視界が明滅するほどの興奮に支配されていくようだった。「いーよ。いっぱいシような」冷静に振る舞ったつもりでも俺の声は上擦っていたに違いない。伸ばされた舌に自らのそれをすり合わせネチャリと音を鳴らし、待ち望んでいたトワッチはあられもない声をあげた。
 両耳を塞ぐ俺に添えられていた子供の手が緩やかに離れ下肢へと移動し、衣擦れの音に続いて液体が糸を引くような粘性の高い音が静かな室内に響く。これはもしやと思い視線を体の下にずらすと彼の手が自らの衣服をずり下ろし性器を弄っているのが見えた。小柄な子供に適当なサイズのそれは勃起しており、勃起してなお皮を被り震えている。俺の両手に挟まれて泣きながら自身を慰める少年は淫らで、そして酷く扇情的で、見た目の幼さと裏腹に漂う艶かしさに思わず俺の喉が鳴った。

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161106