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小さな友
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 多少のハプニングはあったが室内のざわめきもだいぶ落ち着いて、おれは当初の目的通り食事を取ることにした。食事はバイキング式のため、おれは手を繋いだままに巨大な銀の器に盛られた肉や魚や野菜を、好きなだけ取って移動していく。何より腹が減っては何も出来ないため、海賊の食事というのはいつでも豪快だ。
 そんなおれの手を握り締めて大人しくついて回るロゼに、子供好きの男どもはやれ可愛いだの何だのとまあ、楽しそうなものである。

「おらボウズ、待たせたな。お前さんのはこれだ。たらふく食えよ」

 そんな言葉と共に奥の厨房から現れたのはこの船に数人乗っているコックの内の一人だった。手にはロゼのために作られたお粥の乗ったトレイがあったが、この大男の前にはやたら小さく見える。二メートル近くある巨体でおれとロゼの前に立ち塞がり、やはりというか何というか、恐れを抱いた子供は声にならない声をあげておれの後ろへ下がった。握られた手には痛いほどの力が込められて震えている。

「大丈夫だよロゼ。こいつのメシはうめェ。受け取れよ」

 握られていた手を離し、怯える子供の肩を軽く押してやったが、涙を浮かべておれを見上げる顔は不安そのものである。しばらくの逡巡はあったものの、やがて子供は細い両腕を伸ばして、それを見たコックがその身を屈めてトレイを手渡した。持てるかと聞かれてロゼは頷く。おれと親父と船医以外とは、まだうまく口が利けないのかもしれない。

「そういやァ、お前ェの服もこいつが作ってくれたんだ。ちゃーんとお礼言っとけよ?」

 思い出したようにそう付け加えるとロゼは固く唇を噛み締めて、ざわめきに掻き消されそうな声で「ありがとう」と告げた。体格のわりに人柄のいいコックはへらへら笑いながら「いいってことよ!」と返す。実に嬉しそうだ。

 人目を避けるために部屋の隅のテーブルを陣取って、おれは持っていた料理の乗った皿を並べてイスに座った。おれに続いたロゼも同じくお粥をテーブルに置いて、少し間を開けておれの隣に腰掛けた。じっとこちらを見つめる目を見返して笑い、手を合わせ「いただきます」と言う。ロゼもそれを真似た。弟みたいで可愛いなと思う。
 フォークで肉を突き刺して口に運ぶとそれを見た子供もまた同じくスプーンを手に取って、湯気の立ち昇るお粥をすくった。食えるだけの元気は出てきたのかと安心した直後に、何を思ったかその出来たてで熱々のお粥を、冷ましもせずに口に寄せた。唇に触れた瞬間に「あっ、」小さな悲鳴をあげて咄嗟に顔を離しておれを見上げる。「出来たてだからな」と返したものの、もしかしてこいつは熱いものを食べたことがないのだろうか。残飯のようなものばかりを食わされてきたのかもしれないとふと思い至って、おれはロゼの手に握られたスプーンを取った。

「熱いもんはさ、こうやって……少し冷ましてから食うんだ」

 すくったお粥にふうふうと息を吹きかけて、おれは自分の口にそれを入れる。冷ましたとはいえまだ熱くて、はふはふ息を吐き出しながら「あふいな」と呟くと、それを見ていたコックが「出来たてだからな」先ほどおれが言った言葉を繰り返した。
 スプーンを返してやるとロゼはまたお粥をすくって、再びおれの真似をしてふーっと息を吹きかける。相当熱かったのだろう。冷ましたお粥を口に入れて、熱そうに、しかしうまそうに噛み締める姿に何となく笑ってしまった。

「うめェだろ?」

 おれも焼き魚を頬張りながらそう問いかけるとロゼはほんの少し笑いながら頷いた。久しく食らうであろうまともな食事に幸せそうに笑ったその子供の顔を、おれはしばらく、忘れることはないだろう。

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120707