ユベルに愛される話
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俺には不思議なものが見える。友人はそれを幽霊だとか幻覚だとか言っていたが、違う。これはそういうものじゃない。
最初、声が聞こえるのはデュエルをしているときだけだった。それが次第に薄らぼんやりと姿が目視出来るようになり、会話が出来るようになり、そして今ではデュエルをしていなくてもお互いの存在を確認出来るようになった。ユベルは俺にだけ見える親であり友達であり恋人である。つまり、そういうことだった。
「ねぇ航一、今日の夕食は何にするんだい?」
椅子に座ってテレビを見ていた俺の後ろでユベルが聞いてきた。別にユベルは食事を取らないんだから何でもいいのだろうが、彼はこういう他愛ない会話を好んでする。彼というのは便宜上の表現であり彼は彼女かもしれない、ということを忘れちゃならない。ユベルには性別という概念がなかった。
チャンネルをポチポチ変えていた俺はうーん何にしようかなーなんて曖昧に返事をした。
「じゃあハンバーグにおしよ。僕はハンバーグを食べる航一の幸せそうな顔が好きなんだ」
「そうなのか?」
「そうだよ」
身を乗りだし俺の顔を窺うユベルは楽しそうな表情だ。にこにこと可愛らしく笑いながらふわりと両腕が首に回されたので、実体を伴わないながらも、俺もユベルの背中を抱くように腕を回した。デュエルディスクで召喚すれば触れるようになるのだが、そんなことを頻繁にすればユベルは常にその状態をねだるようになるのでそれは滅多にしないことだ。
「そうだユベル。ご飯終わったら一緒に風呂でも入ろうか」
「……どうしたんだい、航一が僕と一緒に、だなんて……珍しいじゃないか」
「そう? たまには風呂入らないと汚いぞ」
「失礼だね、僕は実体がないんだから汚くなんてないさ」
「じゃあ入らない?」
「入るよ。……航一は意地が悪いな」
「ユベルが可愛いからね」
膝の上に跨がるような形で浮いているユベルがむっとしながらも頬を赤らめたのでちょっと笑ってしまう。普段は大人びているのにこういうときは子供のように拗ねるのだから可愛くてたまらない。俺もユベルが大好きなのだ。
唇が触れそうなほどの距離で交わされた約束はごく当たり前の日常と変わらなかったが、それはユベルのお陰か酷く甘ったるく感じる。約束を破って先に入ったり寝たりしたらきっと殺されるな、などと思いながらも、俺はとりあえず夕食はハンバーグにでもしようと予定を組み立てるのだった。
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