小さな友
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二人してシャワーを浴びたあと、おれとロゼは食堂へ向かった。おれは相変わらずパンツと短パンだけの軽装で、ロゼはクルーの一人が裁縫した子供服姿である。男の中にも十人に一人くらいは料理や裁縫の得意な者がいるもので、しばらく陸に停泊予定はないため非常に助かった。古着を裁断して縫い合わせただけの簡素なものではあるが、ロゼが元々着ていたボロ布のような服よりは数段マシというものである。
船内通路を歩いていると多くの仲間とすれ違った。広い船とはいえあらゆる場所に役割がある。何人もの男どもが動き回り航海しているのだから当然その面々と遭遇することは多いが、その度にロゼはおれの後ろに隠れ張り付いた。やはり特に屈強な男が恐ろしいようで、おれのカーゴパンツの裾を握り締めなるべく目を合わさないよう俯いているようだった。みんないい奴なのだが恐らくロゼにはそれは伝わらないだろうから、おれは男どもに軽く喋りかけてロゼへの注意を逸らしてやる。フォロー役も大変だ。
何はともあれ、少しずつ人に慣らすためにも、不特定多数の人間がいる食堂というのはいい場である。いい匂いの漏れ出すドアを開けるとおれに気付いた者が声をかけ、そのやり取りに気付いた者が更に声をかけてくる。ロゼはおれに後ろに隠れ、先ほどと同じように俯いている。
「ほらロゼ、行くぞ?」
「ーーあっ、」
足を踏み出したときだった。顔を俯けていたロゼの手がおれのカーゴパンツと共に前に引かれ、突然のことに対応出来なかったのだろう。たたらを踏んだ子供の手に力が篭り、その力とよろけた体の体重が全て、おれの服にかかった。あっと声をあげる間もなくずるっと音を立てておれのカーゴパンツと、そしてそれと一緒に掴まれていたらしいパンツが引きずり落ろされる。丁度挨拶を交わしていたのだ、みんなの目線がおれに集まっていて、その視線はそのままおれの下半身へ下りた。なんてこった。
「あっ、あ、あ……ご、ごめんなさ……」
食堂でフルチンを晒すおれの後ろでロゼは目に涙を浮かべて震えていた。当然怒られると思っているのだろうが、生憎というか幸いというか、おれには男に股間を晒して恥じらうような羞恥心は持ち合わせていなかったため、爆笑に包まれた室内でため息を付きながらそれを履き直した。「ヒヒヒッ!!隊長何出してんですか!!」「エースお前いいもん持ってんじゃねーの!!」「ちっとも恥ずかしがらないなんて流石ですよ隊長!!」口々に揶揄するアホどもにうっせェと返しながらロゼを振り返る。船内で全裸になるくらいなら構わないが、これを町中でやられてはたまったものではない。
「おい、ロゼ」
「ひっ……ごめんなさい、ごめんなさ……!」
ほれ、と左手を差し出してやる。ロゼはぶたれると思い目を瞑ったが、何もされないために恐る恐る目を開き、それから差し伸べられたおれの手と顔を見比べた。
「町中でフルチンなんて笑えねェからな。警察に追われるのはごめんだぜ」
「エース隊長〜、俺たちゃ海賊! 既に海軍に追われてるぜ〜!!」
「うっせ! 分かってらァ!」
ぽかんと口を開けたままのロゼの前でもう一度手を動かした。悩んだ挙句にようやく伸びた細い手が、恐々と手を握る。細くて小さくて震えていて、そのくせ体温だけは高い、今にも折れそうなほどに華奢な手だ。善人ぶるつもりもないが、こんな子供にどれだけの悪虐を働いていたのかと思うと虫唾が走るというものであった。
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120706
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