魔物との話
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「こんにちは、バルトロ」
昼下がり、学校をサボッた俺はいつも来ている土手へと向かう。何をするわけでもないのだが、ただそこに目当ての生き物がいるから会いに行くのだ。今日もその生き物は土手にいて、やはり彼もまた何をするわけでもなくぼんやりと川を眺めている。もしかしたら川に泳いでいる魚を捕ろうか考えているのかも知れない。
「今日もいい天気だね、バルトロ」
相変わらず答えはなく時折小さな声でグゥ、と喉を鳴らすだけ。もちろん動物相手に答えを期待しているわけでもないので俺は口元に笑みを保ったまま、白いぬいぐるみのようなバルトロの隣、1メートルほど離れた位置に座った。ろくに教科書も入っていない鞄を隣に置いて横目にバルトロを窺う。
「バルトロ、撫でてもいい?」
言葉が通じているのかいないのか分からないが、とりあえずゆっくりと手を差し出してみる。バルトロがこっちを向いた。何を考えているかさっぱりわからない目。でも多分バルトロから見た俺もたいして変わらない気がした。彼は何も返事をせず、またしばらくすると川を眺めだす。パチャンと水が跳ねる音がして、僅かに白い毛をまとった頭が動く。なるべくそっとバルトロの頭に手を伸ばした。反応はない。更に近付ける。
「……いい子だね、バルトロ」
力を入れず、優しく、ただひたすらに優しく1度だけ撫でる。あまり触るとバルトロは怒って噛みつくので、これが精一杯と悟っている。それでもちょっと前までは触ろうとするだけで噛みつかれたのだから、短い期間で大分俺に慣れてくれたのだと思う。そんなところもまた可愛い。
「グル、グゥ」
また喉を鳴らした。手を引っ込めて顔を正面に向ける。バルトロも同じ場所を眺めている。
もうしばらくすれば、このバルトロの飼い主が現われるだろう。凄く傲慢そうな顔をした、強面の男だ。出来れば俺がバルトロを引き取りたいがそういうわけにもいかない。ピチャンと魚が跳ねて、俺とバルトロはそちらへ顔を向けた。
いつまでバルトロとこの土手で会えるかはわからないが、俺か彼のどちらかが、あるいはどちらともがいずれここに現われなくなることは確かだ。
ぼんやりと川に思いを馳せ、俺はまたバルトロを見つめた。バルトロはただじっと、川を見つめていた。
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